気が弱そうで強い幼馴染っていいですよね

二人は手を繋いで層間に入った。


層間の中は天井や壁から青い鉱石で照らされていて、改めてみると神秘的だった。

弟とプランが居なくなってから周りの景色が見えて居なくなっていたことにその時になってやっと気が付いた。


ーーというよりヘンリってこんなに可愛かったっけ!?

サラサラな金髪に緑色の目。前髪はちょっと重ためだけど金髪だから重く見えないし、細いからだしているのにあるところはある……。ってかまつ毛も見えづらかったけど長いな……。


お、幼馴染だったから考えたこともなかった……。


「あ、ありがとう!ヘンリ、俺が周りが見えていないことがわかってたから手をつないでくれたんだね。」


明らかに動揺しながら話す自分に対してヘンリは微笑みながら言葉を返す。


「ん?そんなことないよ、私が落ち着きたかっただけだよ」


「そ、そっか……。」


自分は邪な思考が現実に至らないように頑張って現実を見る。


水分は生活魔法で生み出すことができるが、食料はどうしようもなかった。


非常用の携帯食を何日か分持ってきていたがもっても5日だろう。


仮に五層でテレポートができなかったり、あのモンスターに阻(はば)まれたら完全に詰(つ)みだ。


余計なことは考えないことにして二人は一緒に寝た。


見張りは層間にはあのモンスターが発生しないとわかったためつけなかった。


ダンジョンに入ってから二度夜を開ける。



今日からついに4層を通り抜ける。


基本五層には階層ボスがいてそれを倒すことでテレポートできるのだが、過去にパーティメンバーの皆で倒してしまっているので使えることを願って動くしかない。


つまり何を言いたいかというと四層を通り抜けきれたらおそらく地上へ帰れるということ。


自分とヘンリは四層にあのモンスターたちがいないことを願い、四層へと降りた。


「静かだね」

「まだいるかもしれないから気を付けよう」


そう、あのモンスターは最初に音もなく出現した。油断してはならない。


「暗いね、暗視の魔法を使う?」


「使うか、六層までは洞窟みたいで整地されてないし」


もともとのダンジョンでは1~4層は獣型で様々な形のモンスターが出現するためか人に適さない整地されていない道であった。


暗視の魔法を使い遠くが見えるようになる。


「嗚呼、ダメだ」


通路の先にいたのは何体ものあのモンスターたちだった。


これで完全に自分たちは詰んだ。


「ヘンリ一旦層間に戻ろう。」

「そうだね」


二人は歩いて層間に戻る。


「ヘンリ、これからどうする?」


自分たちは頭を悩ませる。どうすればいいのか必死に考えた。


「そうだね~、いったん食料もある程度あるからゆっくり考えよう!それにギルドも私たちのこと探し始めてるだろうから、きっと大丈夫!」


ヘンリは暗い雰囲気にならないようにハキハキと喋る。


だがギルドが冒険者のためにダンジョンない探索を始めるなど、そんな前例は聞いたことがなかった。


しかし、自分たちは最年少パーティのため探してくれる可能性も無い訳では無い。


「そ、そうだな!これからゆっくり方法を考えよう!」


雰囲気は暗くならなかったが状況は最悪のままだった。


方法を見つけないと全滅までは時間の問題だ。


「こういう時は現実から離れない程度に楽観的に考えよう!現状を整理しながら語尾に”だけ”と付けたら大体大したことは無いんだ!まずは状況把握からだよ!ヘンリ!」


「そうだね!それじゃあ今は盾役と治癒士がいないだけ。実際多少の治癒魔法なら私も使えるし君は防御するってより回避することの方が得意だから負っても深い傷にはならないし、」


「ヘンリ、それをだけっているのは不謹慎だよ・・・」


「え!?まぁ確かにそうだけどさ・・・」


ヘンリは不満そうな顔で「ごめんね」と謝る。


自分は「冗談だよ」と笑って返す。


意外なもので13年一緒に生活してきた弟が目の前で侵食されていたのに、実感がわいていないためか涙が出ない。


状況が悲しむ時間を与えなかったためだろうか?

もし帰れたらちゃんと悲しんでやれるだろうか。


二人は状況の整理を再び始める。


「あのモンスターは一層に十数体、二層には居なくって、三層は一体、四層は6.7体くらいだけだったよね?」


「俺もそのくらいだったと思う。食料はあと五日間分だけ・・・」


「それはだけって言わない方がいいんじゃないでしょうか!?」


「たしかに、でも三層に行ってプランやカイトのところに行ったら十日分はある!」


「でもそのためにはまたあのモンスターの隙を潜り抜けなくっちゃいけないね」


「あのモンスター一体だけさ!」


自分はある仮説をひらめいた。


「もしかしたら、俺らはあのモンスターを怖がりすぎてるだけなのかもしれない…!」


「怖がりすぎてる?」


「だってダンジョン内に文字通り無数にいるあいつ等が強すぎるわけがない!と思う。実際俺の剣では何故か切れたし、何か法則があるのかも。」


「でも危ないよ?二人はあのモンスター一体にやられたんだよ?」


「そうだけど・・・そうだけどきっと知らないことだらけだから恐怖に感じているんだよ!知らないことは怖く感じるもんさ!

三層には一体しかいなかった!

三層で出来るだけあのモンスターの情報や法則を見つけれたらこの状況も何か変わるかもしれない!!」


勢いに任せて自分の声は大声になり、層間に大きな声が響いた。


言い合うような形になってしまったが、実際あのモンスターをどうにかしなければこの先に未来はない。


自分とヘンリはお互いに黙って見つめ合う。


見つめ合うというより口論の末睨みあっているという言葉の方があっているのかもしれない。


「はぁ・・・たしかにそうだね。君の言う通りだよ。この先ここから出るためにはあのモンスターたちについて少しでも知らないといけないもんね。」


肺から大きく息を吐き出し仕方なしにヘンリは言うことを聞くことにした。



その日の夕方であろうの時間帯、自分たちは三層に向かった。


三層は四層に比べて明るく周りが良く見渡せる。そして目当てのモンスターが遠くに見えた。


二人は息をのむ。


自分は剣を抜きヘンリは杖を構えた。


息と足音を殺しながらも最大限のスピードで筋肉と垂直になるように切りかかる。


剣は腕に刺さったが腕自体を切り落とすことは出来なかった。


自分は力強くで剣を引き抜く。


二人に気づいたモンスターは大きく腕を振りまわす。


動きがゆっくりでかわすのは容易かった。


一度モンスターと距離を置く。


モンスターは追いかけようと動くがそれもノソノソと動きがゆっくりだった。


もう一度大きく振りかぶるモンスターの腕を避け、隙を狙って次はモンスターの繊維を削ぐような角度で腕に剣を振り下ろす。


するとさっきとは違い簡単に切り落とすことができた。


「やっぱり!」


層間で弟の攻撃が通らなかった時と自分の剣の通った時の違いを考察した。


剣の切れ味は、特に大きな差はないと仮定したとき、明らかに弟と自分で異なる点があった。


繊維が強調されているモンスターであることから、ほかの肉同様に繊維の向きから攻撃の入りやすさが違うのではという考えだった。


実際弟が頭に垂直に剣を振り下ろしたのに対して、自分は斜めに剣を入れた。


ここまで決まれば難しい話ではなかった。


隙を狙い続けてモンスターの四肢を切り落とし動きを止めることができた。


切り落とされた四肢は繊維がピクピクしながら胴体へと向かっている。


「ヘンリ!もう近づいていいよ!こっからあとは他の弱点を探すか!」


モンスターの倒し方は二通りある。


コアを持たないモンスターはモンスターに負傷を負わせ続けることによって倒すことができる。


ギルドでお金になる魔獣というコアをもつモンスターは負傷を負わせるかコアを壊すことで倒すことができる。


コアはg(ぐらむ)単位で交渉され、冒険者はそれを集めて換金することで生計を立てている。


「焼いてコアの場所探す?燃えカスの中から多分出てくるんじゃないかな?」

「わかったヘンリの言うとおりにするよ。念のため腕や足も燃やしておこう!」


燃える四肢と胴体がまぶしくて目をつぶる。


弟を吸収してやって来たこのモンスターは弟だったものともいえる。


黙禱(もくとう)するように自分は目を閉じて剣を収める。


カイトに対して行ったのか手ごわかったこのモンスターに対して行ったのか自分は分からなかったが、するべきだと感じて自分は目を瞑った。


「コイツはカイトだったんだな・・・俺カイトの携帯食と防具拾ってくるよ!」


幸いダンジョンの設計が変わってからこのモンスター以外のモンスターは登場してないためほかにモンスターがいないことはわかっていた。


「あったカイトの防具!ヘンリ!こっちにあったよ!」


ヘンリのもとに駆け寄った。


「どう?そっちは、モンスターのコアの場所わかった?」


「うん、人の心臓部分とそんなに変わらない場所、骨はないけどほとんど胸筋らしき部分のちょうど中心らへんだね。」


自分はコアを剣の鞘(さや)で粉々にした。するとほかのモンスター同様に残っていた部分が灰となって消えた。


「終わった。」


自分の口から無意識のうちに言葉が漏れていた。


その安堵の言葉とともにデカいため息がでる。


「ううん、これからが始まりだよ。一層は数が多すぎるから避けるとして、四層も同じモンスターが何体かいたしね。それにボスも復活してるかもしれないしね。」


「確かにそうだけどさ、ちょっと安心って言うか希望が見えてきたよな。」


「たしかに、そうだね。」


気が緩まらないようにヘンリは自分に厳しくしているのかもしれない。


「今って大体夜の10時くらいか?帰りに二時間かかるとしてもまだゆっくり帰れるな。」


「まだそんな時間なんだ、もっと時間たってる気がしてたや。でもダンジョンの鉱石の光で目が覚めたんだからそんな時間なのかも」


「わかんないけど今日は疲れたから帰ったら寝て、起きたら作戦立てて、明後日にでも四層に行こう!」


この時自分たちは確かに気が抜けていて、自分たちがどうやってこの状況になったのかを覚えていたが頭でわかっていなかった。

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