第19話 2度目のディスカッション 2


 カウンターの方が、何やら騒がしくなっているようだが、テーブルでは、エルメアーナの熱弁が振るわれていた。


 特に、ビットによって潰して丸めるにしても、その方法だと、どんなに強い力で押さえつけても、かなり不完全な球体だろうというエルメアーナの発言に、ジューネスティーンもシュレイノリアも反論ができずにいた。


 プレスだけで完全な球体になるなら、その後に円盤で表面を綺麗にする必要は無いのだから、円盤に入れるボールというのは、歪な形をしていることが当たり前になる。


 そのような歪なボールをセットするのであれば、渦巻状と放射線状の円盤では、ボールが転がる時に引っかかる可能性が高いので、そのような形状では、そこでボールの回転が止まってしまい本来の真球を求める事は、不可能になってしまう。


 そして、引きずるように円盤が回転していくとなると、円盤の表面を余計に傷つけることになる。


 それは、ボールが転がっていくよりも大きく削る可能性があり、円盤の消耗も激しくなる事が考えられるのだ。


 その状況を可能な限り小さくするのなら、角を無くすため、両方の円盤に同じ同心円を用意して、ボールが円形のトンネルの中をボールが転がっていった方が、引っかかる可能性は無くなる。


 ボールが、歪になっていて、溝でできたトンネルを転がる中、わずかに溝の直径より大きいだけなら、勢いで転がるだろうが、ボールの歪率が大きすぎた場合は、円盤の溝を引きずるように滑っていくようなる。


 真球度が悪すぎると、エルメアーナの方法でも、円盤のトンネルの中を引きずってしまうことになれば、ジューネスティーンの提案した方法と、なんら変わりはない。


 エルメアーナの説明を聞いて、シュレイノリアは気に入ったようだった。


「ふん。 その程度の事なら作った後に考えれば良い。 もし、まともに回転しないなら、そのトンネル内を転がるボールに合わせて最初は少し広めの溝を用意すれば良い。 それに円盤には何本もの溝がある。 案外、内側と外側の速度差による影響を考えれば入れる順番を考えてやるだけで問題解決するかもしれない」


 シュレイノリアは、エルメアーナの考えた方法には、ジューネスティーンの考えを補って、問題を未然に防ぐ算段があると思ったようだ。


 そして、エルメアーナの方法を使い、具体的なボールの作り方が見えてきた様子で鼻をヒクヒクさせ満足そうにしていた。


 シュレイノリアには、昨日、大した話もできていなかったエルメアーナが、今日は打って変わって自分の意見を言っている事にも嬉しく思っているのだった。




 人の意見は、それをまとめられる人が居るなら広く意見を求めた方が良い。


 2人の意見で考えるより3人の意見を聞いて総合的に判断すれば良いのだ。


 昨日は、シュレイノリアとジューネスティーンの2人の独壇場で、エルメアーナは聞いていただけだったが、今日は内容を吟味して改良方法を提案してきてくれた。


 転がり方向に引っ掛かりを無くすだけではなく、これから先、何度か実験を繰り返したり円盤の修正を加えるとなったら、その際に加工が簡単なことはありがたい。


 ダメだったとして、もう一度作り直しが必要になったとしても円盤の加工時間の短縮はありがたいのだ。


 ジューネスティーンは、卒業までにパワードスーツをギルドに納品することが、特待生として学費と寮費の免除とする事を約束されているので、もし、それができなかった場合は、学費と寮費の返還もだが、シュレイノリアとジューネスティーンの為に行った寮の部屋の改修費用も請求されることになる。


 卒業までにパワードスーツを納品できなかった場合、ジューネスティーンは多額の借金を背負うことになるのだ。


 ベアリングの開発が早く完了するとなれば、ジュエルイアンにベアリングの技術を買ってもらう事になる。


 卒業前にベアリング技術が完成したら、ジューネスティーンが卒業までにパワードスーツをギルドに納品できなくても、学費等の全費用を請求されても、ギルドに返還可能という事になるのだ。


 パワードスーツの未完成時の保険として、ベアリングの技術の確立は、後顧の憂いを絶つ事になる。


 そんな事もあるので、学校で進めているパワードスーツの開発を行う中、ベアリングの生産方法の確立まで含めた開発をエルメアーナが担ってもらえるのは、2人にとって、ありがたいのだ。


 また、ジュエルイアンとしたら開発からエルメアーナが絡むことで量産化に向けた時間短縮も考えていたので、エルメアーナがアイデアを出して開発の主導権を握れることは大変助かる事になるのだ。


 これが、全てジューネスティーンとシュレイノリアが中心となって完成させ、それを引き継ぐ形にしたら技術格差のある中での引き継ぎとなるので、引き継ぎにかかる時間もあるだろうし、引き継いだ後トラブルの発生に対して対応できなくなる事も困る。


 エルメアーナが、ジューネスティーンとシュレイノリアの2人のアイデアを具現化することになれば、製造が行われるようになった後、エルメアーナが問題解決にあたれるのだ。


 ジュエルイアンとしたら、ベアリング技術の利用範囲が広い事もあり、そのアイデアに人も金も用意しているのだ。


 大きな利益を生む可能性があるベアリング技術について、技術的な部分をエルメアーナが理解してくれる事で完成後も大きなメリットとなる。


 ジュエルイアンは、様々な部分にこのベアリングを使おうと考えているのだから、自分の息のかかった人に技術が流れる事は非常にありがたい事なのだ。

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