第18話 2度目のディスカッション 1


 昼下がり、夕方にはまだ早い時間に、エルメアーナの店の扉は開いた。


「こんにちは」


 入ってきたのは、エルフのアンジュリーンだった。


 店内のディスプレイを確認していたアイカユラは、そちらを向くと、その後ろからウサギの亜人であるアイリアリーシャが顔を出した。


「こんにちは」


 アイカユラは、2人に挨拶すると、アリアリーシャも挨拶を返したのだが、肝心の2人の姿が見えないので気になったようだ。


「あら、今日は2人だけなの? ジュネスとシュレは?」


 2人は気まずそうにした。


「2人も直ぐに来ると思います」


 アンジュリーンが、仕方なさそうに答えると、2人は、昨日と同じように店のカウンターに歩いていった。


 その様子を不思議そうに思いつつも、アイカユラもディスプレイの確認を終わらせるとカウンターの中に入った。


「あの2人が居ないと、話が進まないでしょ」


 アイカユラは、不思議そうに2人を見た。


「まあ、そうなんですけど、ちょっとね」


「そう、ちょっとですぅ」


 2人は顔を見合わせて、気不味そうな表情をした。


 すると、店の扉が乱暴に開くと、ムッとした表情のシュレイノリアが店に入ってきた。


 そして、ズカズカと歩いて、アメルーミラの座るテーブルに歩いていくと、昨日、座った場所に勢いよく座った。


 そして、腕組みして正面の壁と天井の境目を見つめると、その視線を徐々にずらしていき、壁の一番はしにある柱が天井と当たる部分を、ジーっと見つめた。


 その後を今度は、ジューネスティーンが、申し訳なさそうに、店の扉を丁寧に閉めると、アイカユラの方を見て苦笑いをした。


 そして、ジューネスティーンの片頬が赤くなっているのを、アイカユラは確認したのだが、それについて、ジューネスティーンに聞けるような雰囲気では無かったので、そのまま、若干引き攣った笑顔で見送っていた。


 ジューネスティーンは、テーブルの方に行き、昨日と同じシュレイノリアの横に座ると、シュレイノリアは椅子を少しジューネスティーンから離すように動かした。


 ジューネスティーンは困ったように苦笑いをした。


「こんにちは、今日は、昨日の続きになります」


 目の前に、何事かと2人を見比べていたエルメアーナに声をかけたので、ジューネスティーンを見た。


「あ、ああ」


 2人の雰囲気が最悪な状況の中、エルメアーナは答えるのだが、ジューネスティーンの顔が気になったようだ。


「おい、ジュネス。 頬が赤くなっているが、誰かと喧嘩でもしたのか?」


 エルメアーナの、その一言に4人の表情が変わった。


 カウンターの2人は、その事を聞くのか、空気を読めよと言うような表情をしていた。


 そして、シュレイノリアは、ギクリとしたような表情をし、ジューネスティーンは、エルメアーナの言葉に、参ったなといった表情をした。


「あ、いや、これは、ちょっと、私が、気を回せなかったので、……。 すみません」


 気まずそうにジューネスティーンが答えるのだが、エルメアーナは、なんで自分が謝られたのか、よく分からないといった表情をしていた。


「ふん、あれは、ジュネスが悪い!」


 シュレイノリアが、ムッとした表情のまま、ボソリと言ったので、エルメアーナは、ますます、分からなくなってしまっていた。


 その雰囲気が、カウンターのアイカユラにも伝わるほどだった。


 このままでは、ディスカッションにならないだろうとアイカユラは思った様子で、慌ててカウンターからエルメアーナに声をかけた。


「あ、ああー、エルメアーナ。 昨日から、何かいいアイデアが出たから、今日もそのアイデアを検討していたじゃないの。 それって、今日の打ち合わせで話すつもりだったんじゃない?」


 エルメアーナは、それを聞いて、自分のアイデアの事を話そうとしていたことを思い出すと、水を得た魚のように自分のアイデアについて、自分の描いた石板を見せつつ説明を始めたので、エルメアーナは、ジューネスティーンとシュレイノリアの様子など、完全に忘れて延々と語り始めていた。


 その様子を見て、アンジュリーンとアリアリーシャは、ホッとしたようにため息をついた。


「ありがとうございます、アイカ」


「そうですぅ。 本当に、助かりましたぁ」


 2人は、アイカユラが、雰囲気を変えるためにエルメアーナのアイデアを話させるように誘導してくれたので、今までの雰囲気が一気に変わった事に、お礼を言うのだが、言われた当人は興味深そうに2人を見ていた。


「ねえ、ジュネスとシュレの2人、喧嘩したでしょ」


 その言葉の裏には、一部始終を全て話せと言わんばかりの威圧があり、顔を見ると、不敵な笑いを浮かべていた。


 アンジュリーンとアリアリーシャは、そのアイカユラの表情に、不味いと思ったのか、2人とも逃げ出そうと、椅子から腰を上げようとすると、アイカユラが、カウンター越しに2人の腕を掴んで、椅子に戻してきた。


「だめよ。 ちゃんと、話すのよ」


 アイカユラとしたら、ここで2人を逃してしまったら、ジューネスティーンとシュレイノリアの喧嘩の原因を知ることができないと思ったので、思わず手が出てしまったのだ。


 アイカユラとしたら、久しぶりの男女の痴話喧嘩の内容を聞くチャンスなのだ。


 この店は、エルメアーナの性癖の為に、全員が女子なので、男女の痴話喧嘩のようなものは無いから、久しぶりに興味深い話を聞く機会に巡り合えたので、絶対にアンジュリーンとアリアリーシャを離す気は無いのだ。

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