第17話 エルメアーナのアイデア
エルメアーナは、店のテーブルに座り、ジューネスティーンの描いていた石板と自分の描いた石板を見比べていた。
エルメアーナは、ジューネスティーン達が今日も来ることになっているので、その前に、昨日考えていたことをまとめた石板を確認しているのだ。
ジューネスティーンの考えていた、ボールを丸めるための円盤は、渦巻き状の円盤と、中心から放射状に溝を掘った円盤を回転させて、お互いの溝の中にボールを通して丸めていくというものだった。
だが、それには放射状の溝だと、回転するボールが立ち上がってくる時に、放射状の溝にボールの回転方向とは、垂直に動いている事もあり、溝の淵が転がってくるボールの歪な部分に当たる可能性がある。
そして、この円盤は歪なボールを綺麗な真球にするためにあるので、投入した時のボールは歪な形をしていることになる。
放射状に伸びた溝だと、歪なボールが転がった時、螺旋の溝から放射状の溝に転がりながら進むのなら、放射状の溝の方の淵にボールのバリが引っ掛かる可能性が出る。
また、円盤の加工を行うなら、渦巻き状の溝を掘るのは、技術的な問題がある。
精度1000分の1を目指すのであれば、円盤の加工も難しいものより、簡単にできるものを用意したほうが、新しい円盤を作るにしても作業時間が減る。
ジュエルイアンが絡んでいるなら、開発に掛かる時間は可能な限り短縮できた方が良いことは、エルメアーナも十分に承知している。
そして、今後、実際に作り出して問題が出たとしたら、対策に掛かる時間も短縮したいと思うものだ。
冒険者なら、出来栄えが良くなるとなれば、待てる事が多いだろうが、商人というのは、それよりも時間を気にするものだ。
その事をエルメアーナは、父であるカインクムの仕事をする姿を見て理解している事もあり、ジューネスティーンのアイデアを更に練り直していたのだ。
そして、そこから、渦巻きと放射状の溝の円盤ではなく、同心円状の溝を固定用の円盤と回転する円盤の両方に作ることで、円盤の生産に対する時間も短縮を考えたのだ。
ボールは、常に丸いトンネルの中を転がることになるので、引っ掛かるための角が円盤に無くなる事を、今日のディスカッションで打ち合わせようと思ってテーブルで検討をしていたのだ。
エルメアーナは、自分の考えに満足していると、店と自宅をつなぐ扉からアイカユラが入ってきた。
「ねえ、エルメアーナ。 お昼よ。 早く食べてね。 それに、ジュネス達が来るのは、学校が終わってからなのだから、まだまだ、先でしょ!」
アイカユラの言葉にエルメアーナも昼食の時間だと気が付いたようだ。
エルメアーナは、自分のアイデアに興奮して、朝から検討を始めていた。
それは、検討するというより、自分のアイデアに酔っていたようだ。
テーブルには、昨日の夕飯の後に閃いた自分のアイデアを描いた石板と、それ以外に、そのアイデアの有効性についての説明用の石板を用意していたのだ。
エルメアーナとしては、その自分のアイデアを、ジューネスティーン達に説明を行うための用意を行なっていたのだが、それは朝食の後から行われていた。
「ああ、アイカか。 分かった。 今、食べに行く」
エルメアーナは、テーブルから立ち上がるとアイカユラの方に歩いて行った。
自分の方に向かってきたエルメアーナを、アイカユラは、困った人を見るような目で見た。
「もう、昨夜の夕飯といい。 ……。 ちょっと集中しすぎじゃないの?」
アイカユラは、エルメアーナに愚痴を言うが、エルメアーナは、特に気にするような様子も無かった。
「あ、ああ、アイカの料理がヒントになってくれたからな。 それを無駄にする訳にはいかないから、しっかりまとめさせてもらってたんだ」
アイカユラは、少し恥ずかしそうにした。
アイカユラは、自分の料理がエルメアーナのヒントになったと聞いて、ちょっと嬉しく思ったようだ。
「私は、帝都にいた時は、フィルランカの料理に助けられていたが、王国に来たら、今度は、アイカの料理に助けられている。 私は、いつも料理に助けられている」
エルメアーナは、ニヤニヤしつつ、独り言とも、アイカユラに話しかけているとも、何とも言えない言い方をした。
アイカユラは、そんなエルメアーナの言葉が嬉しかったようだ。
モジモジしつつ、頬に両手を当てて、嬉しい気持ちを隠そうとしているようだった。
「何よ。 私が、エルメアーナのアイデアの助けになっていたなんて、……。 デヘェ、デヘヘ」
アイカユラは、ニヤニヤしていた。
自分にも助けになれる事が有ったと思うと、とても嬉しそうにしていた。
そして、エルメアーナは、店の奥へに入るのだが、アイカユラがついて来ない事に気が付いた。
リビングのドアを開こうとして、店の方を見ても、アイカユラは戻ってこないので、もう一度、店の方に戻って行った。
そして、アイカユラを確認すると、先ほどと同じようにニヤついて、モジモジしていたのだ。
「おい、アイカ? お前、変だぞ。 それに、昼食を食べろと呼びにきたのは、お前じゃないか。 食べたら、ジュネス達が来るまで、また、検討するんだから、早く食べるぞ」
エルメアーナは、それだけ伝えると、リビングの方に去ってしまった。
だが、今の言葉は、アイカユラには、いまいち、気に食わなかった様子で、ムッとした表情になっていた。
そして、エルメアーナを追いかけるようにリビングに向かった。
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