第11話 3人のディスカッション 5


 太い針金を均等な長さに切ると言われて、ジューネスティーンは考えていたようだが、気付かれないようにエルメアーナの様子も確認していた。


 これは、ジューネスティーンが理解するというより、エルメアーナにシュレイノリアの情報を吐き出させて聞かせるためにあったのだ。


 エルメアーナとしてはチャンスだと思ったのか、真剣な表情で2人の会話を聞いていた。


「そうだな。 それだと、球体の素材は用意できるな。 太い針金か」


「ああ、針金は、引き伸ばして使える太さにしている。 だったら、その途中の太い針金を素材として使えば良い。 それに炭素量の多いものを素材として用意してもらう。 球体の体積と円柱の体積を同じになるように計算すれば、針金の直径がわかっているのだから、長さは、簡単に出る」


 シュレイノリアは、ジューネスティーンが、考えをまとめる前に、言われるであろう内容を伝えた。


「ああ、そうなるのか。 円柱の体積=球体の体積、なの、か。 ……。 2πr2乗×高さ=3分の4πrの3乗、って、ところだな。 ……。 実際には、実験しつつ完成品と切断した円柱上の体積の比較はする必要があるだろうな」


 ジューネスティーンは、それを聞いて納得した様子で、具体的な計算方法を考えていたのをエルメアーナは、ジーッと見ていたのだが、計算式が出てきて、少し困ったような表情をした。


 計算式を聞いて、シュレイノリアは、周りにはよく分からなかっただろうが、愉悦に満ちた表情をわずかにしたのだが、その様子をジューネスティーンだけが理解していたようだ。


「そうだな。 それで、球体も作る事が可能だな。 それとビットと円盤は、かなり硬度が高い必要があるな」


 そして、球体にするためのビットと、ボールを丸めるための円盤について、さらに方向性が見えてきたのだが、1人だけ取り残されてしまていた。


「そうなる。 硬度が低い方が多く削れるが、硬い方も僅かだが削れていく。 ビットの硬度は高ければ高いほど、寿命が伸びて、より多くのボールが作れる。 だが、最初は、ボールベアリングが作れるという方向性ができるだけで良いだろう。 数百のボールを作るだけで問題は無いはずだ。 本格的な量産は、その後になる」


 2人の話は、エルメアーナにとって、全く未知な領域に入っていたのだが、必死に付いていこうと話を食い入るように聞いていた。


「ああ、そうだ。 量産体制を整えるのは、今回の量産試作を終わらせてからだ。 きっと、数を作る事で、今まで見えてなかった事が見えてくるはずだ。 本格的な量産の前に、ある程度の数を作る事で量産時に起こりそうな不具合を検討して対策を施す。 それによって、量産時の不具合を減らすんだ」


 2人は、量産試作から量産までの行程の話をしていたのだが、エルメアーナにとって工業生産の話になっており、所々、不明な部分が多かったようだが、知らない内容を聞くことが楽しいのか、必死に2人の会話を聞いていた。


「そうか、だったら、これで、ボールに対する検討は、こんなところか」


「そうだ」


 ジューネスティーンは、一番問題になりそうなボールについて、方向性をまとめられた事に満足そうにしていた。


 それは、シュレイノリアも同じなのだが、実際に作る側のエルメアーナにとっては、頭の痛い内容だった。


 2人の話が高度すぎるので、理解できない部分もあり、そんな部分は、必死になって言葉を覚えるようにするだけで精一杯だったのだ。


「あとは、内外のリングとボールの固定リングだけか」


 ジューネスティーンは、一番問題となるボールについて方向性が決まると、それ以外のパーツについて考え出したが、シュレイノリアは、大して気にしては無かったようだ。


 そんな中、エルメアーナだけが必死に2人の話を食い入るように聞いていた。


「内外のリングは、回転運動ができるだけだ。 円柱が一つあれば、そこから、削り出すことで用意できる。 回転軸に合わせて円柱を固定できる固定装置を作ることさえできれば、問題ないはずだ。 回転軸に固定する治具なら、その方が、ボールを作るより簡単にできるはずだ。 円柱の側面を3箇所で固定するだけだから、それ程難しくはない。 後は、回転方向と治具が外れないようにネジ山を考えれば良いだけだ。 ダメなら、緩み止め用のナットを用意することで対応可能だ」


 シュレイノリアの言葉をエルメアーナは、呪文のように思えたのか、必死に理解しようと聞いている。


 しかし、分からない部分が多いといった様子で聞いているだけだったが、2人はエルメアーナの事を気にする様子もなく話を続けていた。


「ボールの固定用のリングは、柔らかい素材で板状の物を使う。 ボールの位置を固定するだけだから、大した精度も要らない。 位置を固定できればそれで終わりだ」


 ボールの位置を固定するだけの、内外のリングの間にあるボールの位置を固定するためのリングについても、ジューネスティーンは、シュレイノリアに話させることに成功した。


 そしてシュレイノリアは、愉悦に満ちた表情をしているのをジューネスティーンは嬉しそうに見つつ、エルメアーナの様子を伺っていた。


 ただ、エルメアーナは、難しい表情をしていた。


「これで、ベアリングを作る方法はできた」


「そうだな、机上プランニングはできたから、後は、これを元に設計図を作って、試作するだけだな」


「そうだ。 これで、スタートラインに立てた」


 シュレイノリアと、ジューネスティーンは、納得できた表情をしたが、今の話を聞いていたエルメアーナは、完全に理解できていなかったこともあり、微妙な表情をしていた。

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