第10話 3人のディスカッション 4


 ジューネスティーンは、何かを閃いたようだ。


 叩くという言葉を何度か口にしてから表情が変わった。


 歪んだ球体を綺麗に丸める目処は立ったのだが、歪んでいても球体だと認識できるような物でなければならない。


 歪んでいても球体と認識できる程度にまで丸めなければ、円盤の治具は使えないので、立方体や円柱では溝の中を滑るだけで転がるような事は無い。


 ある程度の球体にする方法を、エルメアーナの言っていた「叩く」からヒントを得たようだ。


「そうだった、ここには、プレス機が有るから、あれを使えば、何とかなるのか」


 エルメアーナは、ジューネスティーンが何を言っているのか、よく分からない様子で、ジューネスティーンを見ていた。


 そして、ジューネスティーンは、シュレイノリアを見た。


「圧力で、球体を作れないだろうか?」


 シュレイノリアは、ニヤリとした。


「可能だ。 その為の、ビットを用意すれば良い」


 ジューネスティーンは、シュレイノリアにも何らかのアイデアが有るように思えたようだ。


 ただ、シュレイノリアは、そのアイデアを自分から伝えるようなことはしないので、ジューネスティーンは何とか話しを誘導する必要があるのだ。


 ジューネスティーンは、一瞬、エルメアーナを見てから、シュレイノリアに向き直った。


「ビットとは?」


 ジューネスティーンは、ビットについて何となく理解はできるようだったが、確実では無いことと、この場には、エルメアーナも居るので、用語についても、しっかりと、シュレイノリアに説明させようと考えたようだ。


 そのための質問をジューネスティーンは、シュレイノリアにしたのだ。


「ビットは、プレスで形を整える。 球体の下半分は台座に固定して、上半分はプレス機に球体の半分の窪みを作った治具だ。 それをプレス機の上と下に取り付けて、その間にボールの元になる材料を置く。 それをプレスして潰せば良い」


 ジューネスティーンは、シュレイノリアの話に納得したという表情をしつつ、エルメアーナをチラリと見ると、厳しい表情をしていたので、ある程度イメージが出来たようだった。


 全く分からなかったら、呆けた表情をしていただろうが、厳しい表情なら、イメージは出来るが、それをどうやって作るかを考えているだろうと、周囲は判断できるのだ。


(ギリギリでもいいから、エルメアーナさんには、この話についてきてほしいからな。 シュレの言い方に任せていたら、誰も、ついてきてくれなくなるかもしれないし、どちらにも気付かれないように、上手くシュレに話させるようにしないといけないな)


 ジューネスティーンは、少し難しい表情をしつつ、エルメアーナとシュレイノリアの表情を確認していた。


「なあ、そのボールの原型の大きさを、全て同じにするにはどうするんだ?」


 ジューネスティーンは、何気にシュレイノリアに聞くのだが、時々、エルメアーナをチラ見していた。


 エルメアーナも、話には集中して聞いているようだったが、話を聞きつつ、自分の頭の中で話の内容を想像しているようだったが、それだけで精一杯な様子で、その中から何か疑問を、ぶつけられそうには見えなかった。


 そうなったら、ジューネスティーンが、可能な限りシュレイノリアに話をさせて情報をエルメアーナに与えることで、後から1人で検討した時に、思い出させることで、何らかの閃きが起こるかもしれないのだ。


 その為、ジューネスティーンは余計な事までシュレイノリアに話させていた。


「ふん、そんなのは、ビットに入れる前の、素材の大きさを、全部同じにしておけばいい。 それだけだ」


 当たり前のように、シュレイノリアは答えたが、ジューネスティーンは、エルメアーナの表情を見つつムッとした。


(おいおい、それだけだと話についてこれないだろう。 もっと、具体的な話をしておかないと、エルメアーナさんの方だって検討が進まないぞ)


 ジューネスティーンの表情には、何か考えがあるように思えた。


「それだと、その前の素材が重要になるな。 大きさを全部同じにする必要があるけど、それはどうなる?」


 ジューネスティーンの質問に、シュレイノリアは面倒臭そうな表情をしたが、そんな状況でもジューネスティーンは、エルメアーナの様子を確認しつつ話をしていた。


(シュレのやつ、やっぱり、かなり、自分の中で方向性も見えていたみたいだな)


 ジューネスティーンには、シュレイノリアに話をさせる必要があった。


 シュレイノリアの頭の中で構築されているボールベアリングの製造方法について、ジューネスティーンは、徹底的に吐き出させて、エルメアーナに伝えておく必要があるのだ。


 シュレイノリアとジューネスティーンならば、いつも一緒に居るので、何かあれば聞くことは可能だが、エルメアーナは、学校が終わった後から、寮の夕飯に間に合うような時間までと、限られた時間の中だけなのだ。


 その限られた時間の中で、シュレイノリアの考えていることを徹底して、エルメアーナに伝える事を、ジューネスティーンは考えていたのだ。


 そんなジューネスティーンの思惑を知ってか知らずか分からないが、シュレイノリアは、若干、面倒臭そうなようをした。


「ふん、そんなのは、針金の太いものを用意しておいて、それを均等の長さに切れば良い。 針金の太さは、意外に太いと思うがな。 ああ、均等に切るのは、プレス機と同じだ。 あれは、回転運動をプレスするための上下運動に変換しているが、プレス機を切断用に変更して、回転運動があるなら、それを利用して針金を一定の長さに出させるようにさせ、それに連動した切断機を用意したら、同じ長さに切る事が可能だ」


 シュレイノリアは、当たり前のように答えた。

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