第12話 エルメアーナの検討 1


 エルメアーナは、ジューネスティーンとシュレイノリアのディスカッションに、ギリギリで付いていった状態だった。


 時間になったところで、一旦終わらせて、ジューネスティーンとシュレイノリア、それに付いてきたアンジュリーンとアリアリーシャは寮に戻っていった。


 今日は、3人によるディスカッションだったのだが、ジューネスティーンとシュレイノリアの話の中に、エルメアーナは、殆ど入ることができなかった。


 本来、ディスカッションもミーティングも、意見が出せないようなら、出席する意味が無いないのだ。


 3人のディスカッションの中で、エルメアーナが言葉に出来た事は、ごく、僅かだった。


 それでも、ジューネスティーンとシュレイノリアは、エルメアーナを信用して、ディスカッションで出た治具の製作を、エルメアーナに任せてくれたのだ。


 ディスカッションでは、大して意見も言えなかった事を、エルメアーナは、仕事で返そうと考えていたので、店のテーブルの上に置かれた石板をジーッと見ていた。




 エルメアーナは、3人のディスカッションの時、ジューネスティーンが、描いてくれた石板の内容を、脇目も振らず、ジーッと見ていた。


(ボールの大きさは、5mmと、10mmの、2種類だった。 ビットと丸める円盤は、2種類を作る事になるのか。 それにビットの方は、一度に一つしか、プレスしないって言ってたな。 2つ以上になると、プレス機の圧力のトン数が減るから、必ず、一つずつだって言ってた。 まあ、このビットを作るのは、問題はないと思うんだ。 だが、ボールを丸める、この円盤は、問題がありそうだ)


 エルメアーナは、ジューネスティーンの描いたポンチ絵をベースに、自分の仕事を検討していたのだ。


(しかし、円盤に螺旋を描くって、しかも、それって溝だぞ、これを作るとなったら、どうやったらいいんだ? 円盤に螺旋の溝なんて、……。 しかも、素材は金属だ。 金属を削るだけでも、これは、手作業になるのか。 ……。 ん? これ、手作業で作ったら、どれだけの時間がかかるんだ? この治具とやらを作るだけで、……、数年かかってしまうぞ)


 エルメアーナは、青い顔をした。


 それは、2次試作を作るに当たって、数年掛かってしまった場合、ジューネスティーンとジュエルイアンが、どう考えるかということだった。


 ジューネスティーンは、卒業までにパワードスーツを作って納品する必要があり、数年掛かってしまったら、それに間に合わなくなってしまう事と、商人であるジュエルイアンが、開発に掛ける時間を、そんなに待てるのかという部分に行き着いたのだ。


 どちらからも、開発に掛かる時間が長いのは、嬉しく無いはずなのだ。


 そうなるとエルメアーナは、ジューネスティーンのアイデアを検討して、開発に掛かる時間を短くするのもエルメアーナの仕事になるのだ。


 エルメアーナは、ジューネスティーンが描いた石板をジーッと睨むように見ていた。


(円で作るなら、ジュネス達が言っていた回転させておいて、そこに金属を削る刃を当てれば、その方が簡単に出来る。 ……)


 エルメアーナは、テーブルから立ち上がると、カウンターの後ろから、石板を2枚取り出して、テーブルの方に持ってきた。


 そして、ジューネスティーンの描いた絵を見ると、隣の石板に円を描き、その円の中に同心円を何本も描いた。


(これだと、いつまでも、回り続けるだけになるのか。 ……。 いや、今の段階でこれを、出し入れも考えて作る必要があるのか? ……。 この世の中に無いベアリングを作ろうとしているのだから、単純に同心円を用意しておいて、どの溝だと、ボールがどれだけ綺麗になるかを調べた方がいいはずだ。 作ってみたら、思わぬトラブルが出るかもしれない。 内側の溝は、回転するスピードは、外側より遅いからな。 その影響は調べておいた方がいいだろう)


 そして、エルメアーナは、自分の描いた石板とジューネスティーンの描いた石板を見比べつつ、何か、納得するような表情をした。


(そうだった。 ジュエルイアンからの依頼は、ジュネスのベアリングの量産化だ。 ジュネスは、自分が必要な分だけで構わないだろうが、それだけで、ジュエルイアンが、こんな高価な機械を買った訳じゃない。 このベアリングというものに利用価値が有るから、私に開発の手助けをするようにと言ったんだ。 だったら、最初に作る治具は、可能な限り単純化して、データを取る必要がある)


 エルメアーナは、ニヤリとした。


 それは、エルメアーナにも、何らかのアイデアが思い浮かんだからなのだ。


(そうだ。 最初の丸める為の円盤は、単純に同心円を何本も用意して、内側と外側で何か問題が無いか、確認できるようにしよう)


 そして、エルメアーナは、納得するような表情をしつつ窓の外を見た。


 通りを子供が走って行くのを、何となく眺めると、その子供の手には、風車が勢いよく回っているのが見えた。


 その様子を見てエルメアーナは、何だか癒されたような表情をした。


(風車か、私も小さい時は、フィルランカと一緒に風車で遊んだなぁ。 そうだ、城壁に上がって風が来るところで、どっちが、よく回るとか、しょうもない遊びをしたものだ。 それで、北の大河の向こうの村の風車小屋を見てたんだ。 あれは、確か、粉挽きに使うって、大人が言ってたっけ。 ……)


 その様子を見ていた、エルメアーナの顔付きが変わった。

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