第3話 仕様確認 2


 テーブルに置かれた、パーツはベアリングの試作品だった。


 ジューネスティーンが、置いたベアリングは、外径5cm程度の物だった。


 そのベアリングは、内と外にリングがあり、その間には、丸いボールが挟まっていた。


 そして、ボールは、8個が均等に配置できるように外径と内径のリングの間にあり、ボールを等間隔に固定する為のリングが内側と外側のリングの間に嵌め込まれていた。


「これの精度を上げて、数種類作りたいんです」


 その机の上に置かれたボールベアリングをエルメアーナは見るが、特に興味を、そそるような仕草はなく、ただ、眺めるだけだった。


「なんだ?」


 エルメアーナは、馬車の車軸を受けるものかと思っていたのか、イメージしていたものとはギャップが有ったせいか、すぐには理解できなかったようだ。


 ジューネスティーンは、その様子を見て、テーブルに置いたボールベアリングを左手の親指と人差し指で、外側のリングを摘むと、目の前に持ち上げ、右手の人差し指と親指で内側のリングを持った。


 そして、左手の人差し指で、外側のリングを軽く弾くようにして回し始めたが、ジューネスティーンには、その回転が直ぐに止まってしまう事が気に食わなかったようだ。


 しかし、エルメアーナは、直ぐに回転が止まってしまう事より、回る時に変な音がする事の方が気になったのか、聞き耳を立てるように左耳をベアリングの方に向けた。


「これは、ボールベアリングと言って、摩擦を減らす物なんですけど、これだと上手にできないんですよ。 ほら、何だか、引っかかるような音がするでしょ」


 エルメアーナは、ベアリングの回る時に発する音については気がついていたので、その音の原因が何なのか気にしていたようだ。


「ああ、そうだな。 何だか、変な音がするな」


 エルメアーナが、同意すると、ジューネスティーンは、微妙な表情をした。


(あー、やっぱり、初めての人にも、こうやって説明すると、すぐに理解されてしまうんじゃ、この程度の精度じゃ、使い物にならないな)


 ジューネスティーンは、エルメアーナの答えを聞いて、初めての人にも違和感を感じるような音が出ている事から、精度の悪さが表に出ていると思ったのか面白くなさそうな表情をした。


 エルメアーナは、その様子が何なのかと思いつつも、あまり、興味をそそらなかったようだ。


「なあ、変な音の原因は、何なんだ?」


 質問された内容が、自分の作ったボールの精度が出てないと証明になったと思った様子で、表情は更に曇っていた。


「これは、内側と外側のリングの間に、ボールが入っているんですけど、その精度が悪い事と、外と中のリングも、おそらく、真円度が出なくて、こんな、音が出たと思うんです。 だから、この精度を出して、量産できるようにしたいんです」


 ジューネスティーンは、自分の作った試作品は精度が出てなかった事もあり、当たるような音がしていたのだ。


 そして、ボールの大きさも、肉眼で確認出来ない程度の違いも有ったとの証明でもあったと思ったようだ。


 専用の機械が無かく、手作りで作った事で、大きさも揃えたつもりではあるが、ボールは肉眼で確認した程度なので、実際に組んでみたら音となって表れてしまっていたのだ。


 その説明を受けている間、エルメアーナは、ジューネスティーンではなく、ジューネスティーンの持ったベアリングをジーッと見ていた。


「ふーん。 そうなのか。 ……。 だったら、その精度を出すように工夫すれば、それで終わりじゃないのか?」


 エルメアーナは、ごもっともな事を言ったのだが、ジューネスティーンは、その精度が、出せないで困っているので苦笑いをした。


 そんなジューネスティーンの表情を気にする事もなく、エルメアーナは右手を出した。


 それは、ジューネスティーンの持っている、ボールベアリングを手に取って、見てみたいと思ったからで、それをジューネスティーンも分かったようなので、持っていた、ボールベアリングをエルメアーナに渡した。


 そして、エルメアーナは、ジューネスティーンがしたように持って、ベアリングを回してみた。


 ベアリングは、周りはするが、時々、何かに引っかかるような感じで、回りにくくなったりしていた。


(この状態でも、大きくして、馬車の車軸に取り付けられていたら、かなり、具合が良さそうだが、これでも、まだ足りないというのか)


 エルメアーナは、内側のリングを右手の親指と人差し指でつまみ、外側のリングを左手の人差し指で回した。


 その回り具合を確認していたようだ。


「ああ、なんか、少し引っかかるみたいだな。 ふーん、精度を出したら、この変な感覚が、無くなるって事なのか」


 エルメアーナは、ボールベアリングを回しつつ、独り言のように言った。


 そして、ジューネスティーンを見る。


「なあ、それで、その1000分の1の精度って本当に必要なのか? それにイメージが具体的にできないと、作るにしても確認できないだろう」


 エルメアーナは、ベアリングを指で回しながら話した。


 


 ジューネスティーンは、その通りだと思ったようだが、それを説明する内容が思い当たらなかったようだ。


「なあ、1000分の1って、どの程度の精度なんだ?」


 エルメアーナの、その質問に、ジューネスティーンは、困ったような表情をした。


「うーん、1mで1mm以下の誤差です」


 その答えに、エルメアーナは、まだ、ピンときてなかったようだ。

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