第2話 仕様確認 1


 エルメアーナは、つまらなそうにしていた。


 それは、ジューネスティーンに教わった日本刀の生産を行えなくなってしまったことで、結果として鍛治仕事ができなくなってしまったのだ。


 エルメアーナとしたら、剣を作る事に生き甲斐を感じていたこともあり、それを取り上げられて面白くないのだ。




 エルメアーナが、不貞腐れて、店に置かれているテーブルに座っていると、ヒュェルリーンが店に入ってきた。


「あら、エルメアーナ、どうしたの?」


 ヒュェルリーンは、何気ない様子でエルメアーナに聞くのだが、それを面白くなさそうに聞いて、エルメアーナは答えもせずソッポを向いてしまった。


 エルメアーナが、剣を作れなくて面白くないと思っている事は知っていたので、その様子をヒュェルリーンは面白そうに見ていた。


 すると、ヒュェルリーンの後から、男性1人と女性3人が、ヒュェルリーンの後から入ってきた。


 男性は、ベアリングの話を持ってきた、長身のジューネスティーンだった。


 出会った時は、体の線は細かったが、ギルドの高等学校での生活によって、体も出来上がってきているところだ。


 そして、魔法職の格好をしたシュレイノリアが、ジューネスティーンに寄り添っていた。


 残りの2人は、若いエルフのアンジュリーンと、もう1人は、顔つきは、全員の中では、一番年上そうな顔つきだが、身長は、4人の中では一番小さい、ウサギの亜人のアリアリーシャだった。


 アンジュリーンとアリアリーシャは、店に入っても、シュレイノリアのように、ジューネスティーンに、寄り添う訳ではなく、少し離れて、店のカウンターの方に移動した。


 ジューネスティーンは、エルメアーナの座るテーブルの正面の椅子に座ると、その横にシュレイノリアが、ここは私の指定席だと言わんばかりに座った。


 この、南の王国の王都で、エルメアーナが、話をできる唯一の男性である、ジューネスティーンなのだが、今日は、趣きが違う。


 それは、ジェルイアンからの指示で、ジューネスティーンの依頼を、エルメアーナが行うように、その打ち合わせを行うために、ヒュェルリーンとジューネスティーンが店を訪れたのだ。


 ただ、エルメアーナは、日本刀の生産を取り上げられてしまった事が、面白く無かったのだ。


 軟鉄と鋼鉄を重ね合わせて作る日本刀の生産が、とても楽しかったので、まるで、おもちゃを取り上げられた子供のようになっていたのだ。


 ヒュェルリーンが、テーブルに座った。


「さあ、始めましょう」


「ふん」


 エルメアーナは、面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「エルメアーナ。 今度の話も、あの剣か、それ以上に面白い話よ。 きっと、気にいると思うわ」


「あんな、斬るために特化した剣なんて、初めてだったんだ。 確かに、ベアリングについて、聞いた内容は、私も画期的な物だと分かる。 きっと、ジュネスの剣より、需要は多いはずだ。 きっと売れる」


 エルメアーナは、ベアリングについて、前情報を自分なりに分析していて、完成後には、大きな市場が待っていることも理解できているようだった。


 しかし、エルメアーナは、面白くなさそうだった。


「エルメアーナったら、そこまで分かっているのに、何で、そんななの?」


 ヒュェルリーンは、不思議そうにエルメアーナに聞いた。


「だって、あれは、表に出ない」


 その答えに、ヒュェルリーンもだが、聞いていた周りも、何のことだと思ったようだ。


「剣は、振り回すし、魔物を斬る。 だけど、ベアリングは、軸に付けたら、周りから見えない」


 エルメアーナは、ムスーッとして答えた。


 要するに、エルメアーナは、剣のように、派手な物を作りたかったようなのだ。


 確かに、パワードスーツなら、関節に使う事になり、馬車なら、車輪の軸と馬車との連結部分に使う事になるので、ベアリングは、外からは、簡単に見る事ができないのだ。


 だが、エルメアーナは、嫌だとか、作りたく無いとは言ってない。


 それに、前回、ヒュェルリーンから、ベアリングの開発依頼をされた時にも、断るような事は無かったので、ただ単に気が乗らないだけのようなのだ。


 エルメアーナの事情が、そこにいた人達に伝わったので、周囲の表情が、緩んだ。


 ジューネスティーンは、どうしようかと、苦笑いをしているが、カウンターのアンジュリーン達は、ヒュェルリーンを見ていた。


 そして、ヒュェルリーンも困ったような表情をしていた。


「まあまあ」


 ヒュェルリーンは、エルメアーナを宥めるように声を出しつつ、エルメアーナの肩に手を当てた。


「これは、どこの鍛冶屋も職人も手を出さなかった代物なのよ。 でも、エルメアーナが作ってしまったら、他の人たちも、同じように真似するでしょうけど、絶対に、同じ物は、誰も作ることができないわ」


 それでも、エルメアーナの機嫌は治ってこない。


 ヒュェルリーンは、仕方なさそうに、ジューネスティーンを見ると、構わず、話を進めるようにというように視線を向けた。


 すると、ジューネスティーンはテーブルの上に何かを置いた。


 それは、外径5cm程のリングだった。

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