エルメアーナのベアリング開発  パワードスーツ ガイファント外伝 〜物が無いなら作れば良い。 諦めない心が、新たな閃きを与える。〜

逢明日いずな

第1話 ジュネスの相談 ジュエルイアンの依頼


 エルメアーナは、ジューネスティーン達との事前ディスカッションの内容について考えていた。


 それは、この世界では、まだ、造られた事のない物であり、完成したら、とんでもない技術革新になるが、未知の技術を捻り出す必要があったので、どうやったら良いのか考えるのだが方法が見つからずにいた。


 断るにしても、今の店を用意してくれたスポンサーであるジュエルイアンが頼まれていると筆頭秘書のヒュェルリーンから聞いていた。


 商人であるジュエルイアンとしても、知っている鍛冶屋と、それに準ずる職人達から全て断られていた事もあり、エルメアーナは最後の砦といってよい。




 エルメアーナは考えていた。


 ジューネスティーンから聞いた内容は、リングとリングの間にボールを入れ、外のリングと中のリングが回る際、間に入っているボールが回ることで摩擦を減らすという物で、それをボールベアリングというものだった。


 ボールが転がる事を利用して回転をスムーズにするという物でありパーツとしての利用方法は有るが、それを見せられても一般人には良し悪しが理解できるか見ただけでは分からないような部品だ。


 実際に使ってみたら、その性能を理解できるだろうが、部品だけを見ただけで理解できる人は少ない。


 ベアリングを馬車の車軸に付ければ回転がスムーズになり馬の負担も小さくなる。


 その用途は広く回転する物に使えば、この世界の工業に関する技術が大いに上がる物なのだ。


 だが、それには大きな問題があった。


 その事をエルメアーナは悩んでいたのだ。


「どうやったら、そんな綺麗な球体ができる? まあ、削り出すよりジュネスの言っていた、太い針金を等間隔に切るまでは何となく分かるんだ。 だが、それって円柱だよな。 それを叩いて丸めるための治具を作る? ……。 だが、それだって、どれだけ叩く必要があるんだ!」


 エルメアーナは、1人で不貞腐れたようにボヤいていた。


「それに、あの精度は、どうなっている。 1000分の1の精度って何だ? そんな精度なんて聞いた事がないぞ!」


 そして、今度はイライラした様子で、また、独り言を言っていた。


 この世界に無いベアリングをの製造依頼なのだが、できれば断りたいと思うような仕事なのだ。


 しかし、その依頼は、ジュエルイアンの筆頭秘書官である、ヒュェルリーンから言われており、今の店も、実家の父親のカインクムの新しい店も全部ジュエルイアンが用意してくれているので、簡単に断るわけにはいかないのだ。




 エルメアーナとジューネスティーンとの出会いは、昨年、ジューネスティーンが剣のメンテナンスを持ち込んできた時、色々な問題が有ったが、そこから始まっている。


 それは斬る剣だったのだが、芯に軟鉄を使い、それを覆うように鋼鉄をかぶせるというものだった。


 刀の芯に軟鉄を使うことで、硬い物を斬る時に受ける衝撃を、その軟鉄が吸収するというものだった。


 一般的に軟鉄だけで作った場合は硬い物を斬ったら曲がり、鋼鉄だけで作ったなら硬い物を斬った際に剣は折れてしまうが、持ち込まれた剣は、芯の軟鉄が衝撃を吸収し衝撃を抑えつつ、刃の鋼鉄なので斬る事が可能なのだ。


 また、その剣は直剣として作った後に焼き入れを行うのだが、その時、刃と峰の部分で焼き入れに変化を持たせて曲剣に仕上げていた。


 直剣として作るのであれば、かなり精度の高い剣にできるが、一般的な曲剣は曲がった状態で剣を作るので精度は難しいと言われていた。


 しかし、この焼き入れで曲げられるなら、直剣として鍛えた後に焼き入れで曲剣にするので直剣並みの精度ができる。


 ただ、ジューネスティーンの剣は、鍛治技術の未熟さから、完成度は悪かったが、エルメアーナは、鍛治技術を教える代わりに、日本刀の技法を教えてもらったのだ。


 その教えてもらえた剣を、エルメアーナが作り販売すると、瞬く間に南の王国の冒険者の間に、軽くて良く斬れる剣として噂が広まった。


 そして、中々、折れることもないと評判になった。


 通常、斬る剣というのは叩く事で刀身に衝撃が走り折れやすいので、その折れないように刃幅や刃厚を厚くする事で強度を増していた。


 そのため、斬るというより、ぶっ叩くと言った方が良い剣だったが、エルメアーナの剣は刃幅も刃厚も薄くなっていることで軽く、そして、取り回し易く刃も鋭かった事でスムーズに剣が魔物を斬る事ができた。


 今までの剣なら斬った時は、まるで棍棒のように、グシャリといった感覚を受けるが、エルメアーナの剣は、スーッと魔物に吸い込まれるような感覚で剣が入り振り抜くと魔物は二つに分かれているのだ。


 当初は、そんな薄くて細い剣などと言われていたのだが1人が使うようになると、その斬れ味を見た他者が欲しがったので、エルメアーナの店は、とんでもない量の剣の受注を受けていた。


 そして、その注文をエルメアーナが店番をしつつ製造していた時、疲れきって様子を見たアイカユラが閑古鳥が泣いていると勘違いしたので、更に受注を受けてしまい、エルメアーナが、とんでもないハードスケジュールをこなす事になった。


 しかし、ヒュェルリーンが店の売上報告を見て気がつき、顧客とスケジュールの変更を了承させた事で、その後、エルメアーナの負担は減り、工房にジュエルイアンの息のかかった女性職人が数名入る事になった。


 剣の製造は、エルメアーナの指導のもと、その職人達によって造られるようになった事で日本刀の生産も安定した。


 それは、ベアリングの開発をエルメアーナに行わせるために、日本刀の生産をエルメアーナから離させようと手配した職人達だった。


 ジュエルイアンとしたら、ジューネスティーンの剣については二の次で、ベアリングの開発をエルメアーナに行わせようと思っていたのだ。


 ジューネスティーンと接触できたまでは良かったのだが、日本刀の製造は余計だったのだが、その性能が冒険者に認めらた事で人の確保に努めていたのだ。




 ジュエルイアンは、ジューネスティーンが、ギルドの高等学校へ特待生として入った内容も知っていた。


 そして、ジューネスティーンの考えた技術には、大きな進歩が期待できたこともあり協力を申し出たのだ。


 だが、エルメアーナとジューネスティーンを引き合わせる前に2人は出会い、そして、ジューネスティーンの日本刀に惚れ込んでしまい、その製造をエルメアーナが始めてしまった事でベアリング開発の着手が遅れてしまったのだ。


 エルメアーナとしても、スポンサーであるジュエルイアンの話は断りきれないのだ。

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