第4話 仕様確認 3
エルメアーナは、1000分の1の精度と言われても、その精度が、どの程度なのか理解でずにいた。
そして、ジューネスティーンも、どうやって、1000分の1の精度を伝えられるのか悩んでいるようだった。
そんな2人を、シュレイノリアが、もどかしそうに見ていた。
「綺麗に顔が写るくらいだ。 方向を変えたら顔が歪むようではダメなんだ。 ボールが転がっても写っている顔が揺れない位だ」
ジューネスティーンが、困っている様子だったので補足したが、それを聞いてエルメアーナは、何かを思い出すような表情をした。
そして、徐々に表情が曇り出した。
「それって、全く曇らないし歪みもないという事なのか?」
「ああ、そうだ。 ボールが回転しても写っている顔は、ブレることは許されない」
エルメアーナは、更に青い顔をした。
「何? 私の剣だって、切先から手元まで、顔を写すように流して見たら、何処かで歪んだぞ。 それを無くすって、……」
エルメアーナは、真剣な表情をして何かの結論を得たようだ。
「それは、剣の精度とかより、高いって事だな」
エルメアーナは、呟くように言うが、鋭い視線でシュレイノリアを見ていた。
しかし、ジューネスティーンは精度について、エルメアーナが想像できたと思いホッとしていた。
「そうだ。 ボールベアリングの精度は、ここに有る剣のどれよりも高い。 その10倍は、精度が高いと思って欲しい」
エルメアーナの独り言のような言葉にシュレイノリアが答えた。
「おそらく、そこのサンプルの精度は、この店の剣と同じ位の精度だから、何か引っかかるような感じがするんだ」
その一言が、エルメアーナはムッとした。
「どういうことだ。 私の作った剣が悪いと言ったのか!」
「いや、そうではない。 ここの剣は優秀だ。 だが、剣の精度程度では、ボールベアリングは作ることができないのだ」
シュレイノリアは、エルメアーナの反応が分かっていたと言わんばかり直ぐに返した。
「何ということだ。 ……。 剣の精度では、使い物にならないってことか。 ……」
エルメアーナは、真剣な表情で1000分の1の精度を考えつつシュレイノリアをみていたが、シュレイノリアは何食わぬ顔をして聞いていた。
この状況をテーブルに座っていたヒュェルリーンとジューネスティーンは困った様子で聞いていた。
ジューネスティーンは何か打開策をと思いヒュェルリーンに視線を向けるが、何もないと思ったようだ。
ジューネスティーンは、何か困ったようにエルメアーナを見た。
「あのー、検討してもらえるのでしょうか?」
ジューネスティーンには、その程度しか思い当たらなかったようだ。
その言葉でエルメアーナは、視線をジューネスティーンに移した。
「ああ、これは、ジュエルイアンからも、引き受けるように言われているからな。 引き受けるよ」
ジューネスティーンは、ホッとしたが、エルメアーナは不安そうな表情をしていた。
「だがな。 それだけの精度となると、そう簡単にできるとは思えんぞ」
エルメアーナは、1000分の1の精度を理解できた事もあり、その未知の領域とも言える精度を、どうやって確保するのか方法が見えてこないのだ。
何らかのヒントが有れば、それを手がかりに精度を上げることができるだろうが、エルメアーナの鍛治技術の中に、そのヒントすらも無かったのだ。
ただ、ジューネスティーンとシュレイノリアには、ある程度の差は有るにしてもエルメアーナほど不安そうな表情は無かった。
「ええ、それは自分も協力しますので、お互いに知恵を出し合って作りたいと思います」
ジューネスティーンもエルメアーナに答えるが、完全に自信があるようではなかった。
何らかのアイデアは有るのだろうが完全ではなく、まだ、思考の中に留めているだけのようなので、それを具現化した時に出てくる問題点が気になっているようだ。
そんな自信の無さそうな2人だったが、何でそんなに自信が無いのかと、不思議そうにシュレイノリアは2人を見比べていた。
「お前達は、何で、そんなに不安そうにしている? ジュネスの剣を簡単に、それもジュネスよりも完成度の高い剣を作ったエルメアーナだ。 お前達2人と私が居たら、この程度のものは確実に完成する」
そのシュレイノリアの言葉に、エルメアーナとジューネスティーンは、びっくりしたように見たが、シュレイノリアは意に介さなかった。
「これは、手作りするモノではない。 これを作るための機械を作る事から始めれば良い」
それを聞いて2人は何を言っているのか、よく分からなそう表情をしたので、シュレイノリアは不満そうにヒュェルリーンを見た。
「ヒュェルリーン」
突然、シュレイノリアに名前を呼ばれたので、びっくりした様子で見返した。
「ここに、金槌を自動で叩く機械が有ったな。 あれは、ジュエルイアン商会の持ち物か?」
それは、エルメアーナを南の王国に招く際、ジュエルイアンが、帝国のイスカミューレン商会から購入して、エルメアーナ用の工房に納品したのだ。
シュレイノリアは、エルメアーナの置かれた状況から大凡の事に気がついていたのだ。
「え、ええ、そうよ」
シュレイノリアの指摘を受けて、ビックリした様子で答えた。
(何よ。 この娘は、なんて鋭いのよ。 そんな事、何で知っているのよ)
ヒュェルリーンは、動揺していた。
「だったら、あの機械を改造してもいいか?」
シュレイノリアは、周りの様子を気にする事なく話を続けた。
「え、あっ! ええーっ!」
ヒュェルリーンの動揺は、さらに拡大した。
「改造がダメなら、あれをもう一台用意してほしい!」
その一言がダメ押しになったのか、ヒュェルリーンは青い顔をした。
「あの機械、値がはるのよ。 ジュエルイアンも、2台目は、直ぐに首を縦に振るとは思えないのだけど」
シュレイノリアには、そんなヒュェルリーンを気にすることはなかった。
「今回のボールベアリングは、人の手で作ることは不可能ではないが、一つ仕様通りに作るとなると、1個作るために10個作って、1個良品が出るか、……。 いや、1000個の不良品と1個の良品ってところだな。 これだとパワードスーツを1台作るのに10年以上かかる。 ギルドの約束は、間に合わないな」
それを聞いて、ジューネスティーンは、ギルドとの約束を思い出したのか、卒業までにパワードスーツを納品する事が不可能と言われて渋い顔をした。
そして、ヒュェルリーンは、ジューネスティーンがギルドに対して約束が果たせないのは、自分の無力からと思ったのか、ムッとしたような表情をした。
「いいでしょう。 その機械、ジュエルイアン商会が、新しいものを2台用意させましょう」
ヒュェルリーンは、意地になって、とんでもない約束をしてしまったのだ。
その言葉を聞いたシュレイノリアは、口の端を吊り上げるように、ニヤリとした。
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