#32.二次障害や転職のはなし
ここまでADHDやASDの傾向、そして僕自身の性格などを深めてきました。
けれどよくよく考えてみるに、人生において忘れ物を全くしない、一度も遅刻しない、昼過ぎに眠くなったことがない……そんな人はいない様にも思えます。発達障害と診断された人でもその傾向は様々。障害の程度もまさにそれぞれ。グレーゾーンという言葉もあるほどですし。
一方、かなり強い傾向を抱えているのに社会的に成功する、或いは何の困りごともなく生活を送れる人もいます。発達障害=僕みたくブッ倒れてダウンするというわけではないらしい。一体この違いは何なのか。
そんなことを考えているときに知った『二次障害』という言葉。
発達障害を持つひとは、鬱病や双極性障害などの二次障害を抱えるケースが多いらしく、僕自身もその一人なのだと。
それは障害があるから、なんてシンプルな理由ではなく、自分自身の特性そして環境との噛み合わせが大きいらしい。
例えば僕が、長時間の単純作業を繰り返したり、正確性が求められる業務についていたならどうだったか。考えるだに恐ろしいけれど、すぐに発狂していた自信があります。だってどう頑張っても出来ないんだもの。工夫や対策で克服できるにも限度がある。
単純作業の合間にミスや居眠りを繰り返し、上司や同僚から哀しい目で見られ、何でこんな単純なことをミスなくできないのか、自分はなんてダメなんだと自暴自棄になり、鬱症状になるルートはアンパンマンのエンディングよりも明確に見えるもの。
じゃあ現実に僕のいる会社はどうだったかと言うと、まぁ、良くも悪くも噛み合っていたのだと思います。
絶望的なスケジュールは過集中でこなす。無理を無理とも自覚しないメンタルで困難なプロジェクトも完成に持って行く。そうしてある程度の成果を出していれば、多少のミスや失敗も目をつむってくれる。
期待には応えなければならない、なんてマイルールもあったかも。そして他己評価と自己評価のバランスが悪く、達成感も得られない。束縛や制限に強いストレスを感じるのに、ルールに則って自分を鞭打ち頑張っちゃう日々。
結果、限界を超えた先にたどりり着いて頭があばばっとなり……こうして二次障害、つまり双極性障害を発症したという流れ。
或いは忘れ物OK・遅刻OK・昼寝OK・イージーミスもOKな職場であれば、あまりストレスは感じなかったのだろうか? そんな会社が倒産しないかはさておき。
更にグルグルと考えてみるに、子供の時から僕は社会に合っていなかったんじゃないか……そんな思考も浮かびます。例えば学校は学問だけでなく規則や規範を学ぶ場でもあるわけで、ルールに合わせ、ルールに則り、他者とイイ感じに頑張る世界。
更に、その学問は一定のペースで学ぶことが求められ、指示された方法で、指示された結果を、それも均等に成果を出すことが評価される。けれど僕の場合は、例によって得意・不得意の極端に激しい学生時代で。
こうなると僕は社会人に向いてないんじゃないか。そもそも会社組織で働くという点が、致命的に合っていないんじゃないか。そんな考えを友人に聞いてもらったところ、彼曰く『会社は一つじゃないよ』とのこと。
「俺も今で3社目やけど、本当にカラーが違う。まだ1社目で判断するには早いんじゃないか?」
そう聞いて、まぁ確かにそれもそうだなと。
「別にIT系にこだわる必要もないし、何が自分に向いてるかなんてわからへんし。最悪、技術者ならフリーランスっていう手もあるしな」
人間、不安になると視野が狭まると言うか、確かに考えが凝り固まっていたのかも知れない。この友人の言葉がかなり胸に残りました。
なので、尾長先生に聞いてみたのです。休職期間中を利用して転職するとか、どうなんでしょうって。時間は無限に等しくありますし。
「あんまりオススメはしないね」
ほほう……?
「転職活動もそうだけど、新しい職場に入るってかなりの刺激になるでしょ? 元の職場に復帰するのも、もちろん負荷は高いよ。でも転職活動して新しい職場に行って、それも休職期間を経てとなると、職場復帰よりかなり大変なんじゃないかな」
ふむ、ふむ。
「それにカバネくんに限らず、新しい職場って絶対に頑張るでしょ? 無理せずソフト・ランディングでペースを掴まないといけない時期なのに、復帰・即・エンジン全開。やっぱりオススメはしないなぁ」
なるほど……。
先生の言うことはよく分かりました。
新しい職場となったなら、自分のペースでゆるゆる進めようなんて想像も出来ません。むしろ今まで以上に張り切り過ぎる自信しかない。休職明けというタイミングでは、確かに負荷が高すぎるのでしょう。
「取りあえず復職を目標にする。そこからが本当のリハビリやからね。転職を考えるのはその後でも良いんじゃないかな」
そんな言葉で今日の診察終わり。
仰る通りごもっともでして、一旦は転職願望を封印することになったのでした。
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