#4.はじめての休職

 休職開始、その朝。


 久々の長期休暇だ! 何して過ごそうどうして遊ぼう! なんて元気があるハズもなく。


 気力も体力も底をついていたので、取りあえずゴロゴロするかなって感じ。会社に行かなくていいのでゆっくり寝よう。思うままに惰眠などを貪ろうそうしよう。


 なんて思ったのだけれど、ちょっと身体の様子がおかしいの。

 まず、朝起きたときの倦怠感がパない。

 いや倦怠というよりか、全身が鉛みたくズッシリ重い。頭から腰までの痛みが今まで以上に強く、布団から起き上がれる気がしない……


「重力に勝てる気がしねぇ!!」


 え、なにこれ。なんで休む前より身体がキツイのん。集中力や思考力も更に下がっているんですが、なんぞコレ、なんぞ?


 バッキバキの身体で辛うじてシャワーや食事を済ませたものの、それ以外はただ寝転がっているだけ。何をするにしても全身が痛くて重い。一体これは如何なる禍事か。


 当時の身体的な状態を記したメモがあったので、ちょっとここに記載してみます。


●頭・首・肩・背中・腰の強い痛み。全身筋肉痛のような痛みが続く 

●頭痛が酷いときは頭髪が思いっきり引っ張られてるみたい 

●不眠、悪夢、寝ている途中で目が覚める

●身体が泥の様に重く、何もする気が起きない。というか出来ない


 こんな状態が何日も続き、これはちょっとオカシイんじゃないかと思い始めました。休んでいるハズなのに重力に勝てない五体ってどうなの。


 なので尾長先生に相談したのです。これ、どうなんでしょうかって。


「仕事を休んで緊張の糸が解けたんでしょう。急に悪くなったんじゃなくて、今までもそんな状態だったのを無理やり胡麻化してただけですよ」


 マジですか。


「初めて受診したときも、全身痛いって言ってたでしょ?」

「確かにそうですね……」

「しばらく休むことですね。今日は元気だな~っていう日があっても、何もしないくらいが良いですよ」

「その、こういう状態って、どこまで治るものなんでしょうか」


 と、恐る恐る質問。

 もう不安でしょうがなかったの。動かない身体、働かない脳ミソ……これらは果たして元に戻るものなのだろうかと。


「あぁそれは大丈夫。まだ若いし全然イケる」

「イケますか」


 そう断言してくれたものの、やっぱり不安の残るカバネ。とにかく信じるしかないのだけれど、内心、僕の中では焦りの感情が強まり始めていました。


 仕事に穴を開けてみんなに迷惑を掛けてしまった。早く戻らなければ、早く元通りに復帰しなければ。

 なので先生にいつごろ戻れますかね? と軽い気持ちで聞いてみたのですが……その時の先生の形相たるや。


「君、そんな簡単に戻れると思ってるん?」

「え?」

「仕事の出来ない身体になるまで、1カ月とか1年とか、そんな短い期間の無理がたたったわけじゃないんだよ。会社に入ってから、ひょっとしたらもっと長い間の無理があって、今に至ってるの分かってる?」

「お、おぉ……」

「そりゃ休めば少しは元気になるよ? でも、もう元気になりましたって仕事に復帰して、やっぱりダメになる人を私は山ほど見てきた。繰り返さないためにはどうするのか。休んで症状が軽くなりました、だからもう働けます。そんな簡単な話じゃないんだよ」


 怖かった。めっちゃ怖かったですよ先生。

 最初の診断では1カ月は休みましょう、という話だったけれど、どうも1カ月で済むものではないらしい。


 いやさ、先生の言うこともよく分かる。よく分かるけれど……いつまで休めば良いのかと、ゴールが見えないというのに非常な不安を感じていました。


「今の時点でいつまでとはハッキリ出せない。様子を見ながら、慎重に慎重を重ねて、それでも復帰してやっぱりダメでした、なんてケースも沢山あるからね」


 少なくとも、早く戻らねばと焦っている内は厳しいだろうね、と。

 マジか~。

 マジでか~。


 言うことは分かる。分かるんだけれど、この焦りって消えるものなのだろうか?

 取りあえず気軽に『いつ戻れますか?』なんて質問は二度としないでおこう。そう心に刻んだカバネでした。怖かった。

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