香の暴挙

「なぁ、頼むよるか。オレと付き合ってくれよ……」

「……」


香は目を潤ませ、俺の頬をスリスリと手で触りながら、懇願してきた。ボディタッチをしてアピールする作戦か……?


「乗るな瑠夏!」

「こんなことで門矢さんを裏切るなんて、あってはならないことだ!」

「やめてくれ流川! 僕はNTRは大嫌いなんだ!」

「うるせぇ! お前らは黙ってろ!」

「「「ぐはっ!!!」」」

「充希! 氏真! 山田君!」


俺に助言を送った三人は、香の部下に殴られた。


「香、答えは必ず出す……ただ」

「ただ、なんだ?」

「あいつらを解放してくれないか?」

「……」


香はまた無表情になった。おそらく、考えてくれてるんだろう。と、希望を託したが


「ぐっ!? ……あ」


香が急に俺の鳩尾を殴っていた。な、なんで……?


「こ、香……?」

「よーしるか。今ので一人分だ。好きなやつを逃してやれ」

「す、好きな……やつ?」

「ああ。そもそも、お前とあいつらが一緒になってルールを破ったんだ。逃がす方法くらい、オレが決めてもいいよな? なぁ!?」

「あぐっ……」


「なぁ!?」という合図で、香はまた俺を殴ってきた。今度は胸だ。


「よーし。これで二人分になったな。好きなやつ、二人解放していいぞ」

「……」


俺は縛られている七人をじっと見た。誰を逃がすべきかはもう決まっている。俺は友達だからとか、そんなのではなく、誰を最初に逃がすべきかはすでに考えていた。


「……城山君と、兄目君」

「え……え?」

「る、流川氏! そいつの言いなりになるでござるか!?」

「よーしわかった。城山と兄目を解放してやれ」

「はい。香さん」


香の部下は城山君と兄目君の縄をほどいた。


「おらさっさといけ! お前らにもう用はない!」

「くっ……流川氏、必ずみなさんを助けて戻ってきてくださいでござる!」

「る、る、流川君……ありがとう」


そして、俺の指名した二人は教室から去っていった。

まず、一発目に殴られた時点で城山君を指名するのは心に決めていた。それは城山君が七人の中で特に怯えていたからだ。次に兄目君を解放したのは、言っちゃ悪いが消去法だ。


山田君、原君、村々君はむしろこの状況を楽しんでいるように見えるし、充希と氏真は状況を理解しているが、キャプテンと副キャプテンという立場上、気になって戻ってくる可能性がある。兄目君は状況をあの三人よりは理解している方ではある上、城山君のケアもできるのでは? と、俺が勝手に判断し、その決断を下したのだ。


「……」

「なぁ、るか。お前がオレのこと好きって言って、門矢と別れて、オレと付き合ってくれるならまとめて解放してやる。もちろん、お前もな。さぁ、どうする?」

「……っ」


くっ……これ完全に脅迫じゃないか!


「瑠夏! 俺たちのことはいい! 拒絶して逃げるんだ!」

「試合のことなんかより、お前の無事の方が大事だ!」

「友達を天秤にかけさせる……これはネタに使えるな」

「瑠夏、代わって欲しいな……俺も殴られたい」

「さ、さすがにこわすぎっしょ……」

「お、おいテメェら! 黙ってろとさっきも……」

「みんな黙ってて!!! これからどうするかは俺が決めるから!!!」


俺は香の部下よりも遥かに大きな声で、みんなを制した。

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