監視役?

「はっ!」

「ナイッサー!」


 ――ここは体育館。俺は彼女である梨音の練習を見に来ていた。……が


「……お前らを呼んだ覚えはないのだが」

「いやー、流川氏のおかげで体育館に入れたので、とても感謝しておりまする!」

「あっ……女子の足、いい! いい太さ!」

「うむ。次の僕の新作のジャンル、バレー漫画もいいな……」

「デュフフフフフ……まさか俺の妄想してた風景が現実で拝めるとは……流川神に感謝!」


サッカーのチームメイト(原君、氏真、充希を除く)が勝手についてきたのだ。


なんでこんなことになったかと言うと……これは数分前に遡る



「はぁー、サッカー部グラウンドの使用期間も終わったし、梨音の練習でも見に行くかー……」


俺は彼女の応援をするというワクワクからなのか、軽い足取りで体育館に向かっていた。そして、体育館に着くと、一人の高身長の女子生徒が(ブルマ姿で)入り口の前で竹刀を右手に持ちながら、まるで監視員かなにかのように立っていた。

それを不思議に思いつつ、俺は彼女に話しかけようと思ったのだが……


「体育館に入る前にいいですか? あなたは何者ですか?」


向こうから話しかけられた。何者って……


「えっと……俺は流川瑠夏。一年生ですが」

「一年なのは緑色のネクタイ見ればわかります」

「は、はぁ……」


説明がかーなーり遅くなったが、肝杉は一年生が緑、二年生が青、三年生が赤で区別されているのだ。それは制服だとネクタイやリボン、体操着だとジャージ、ハーフパンツ、ブルマに反映されているのだ。

ちなみに彼女は赤色のブルマを履いている。つまり、三年生だ。


「で、一年何組?」

「……一年A組です」

「なるほど……彼女はいる? その彼女が肝杉にいるなら、名前も聞かせてもらえる?」


マジか……こんな完全プライベートなことまで聞くのか。


「……ぃ、す。名前は……ぉんです」

「声が小さい! もう一回!」

「……ひっ」


彼女は脅しをかけるかのように、竹刀を思いきり地面に向かって叩きつけた。俺はその行動とそれにより発生した大きな音に恐怖を感じ、腰を抜かした。


「え、えっと……俺の彼女は」

「流川君の彼女は……?」


ダメだ……大声で言わないと多分俺の命の保証はない! 言え! 言うんだ!


「俺の彼女の名前は! 同じ一年A組の!! 門矢梨音です!!!」

「あー……梨音か。だいぶ前にウチのクラスの間でもウワサになっていたけど。君だったのか!」


ウ、ウワサ……?


「いやー、梨音って一年生の中ではトップクラスの人気者って言われてるじゃん。だからその人気者に彼氏ができると、学年問わずウワサが立つんだよ」

「な、なるほど……」

「で、流川君は愛しの彼女である梨音の応援に来たってとこ?」

「は、はい! そんなところです!」

「おうおう〜健気だね〜君は」

「は、はい……」


あれ? この先輩、さっきまですごい怖いって感じだったけど結構明るくていい人……?


「あの! ちょっといいですか?」

「ん? なんだい?」

「なんで体育館に監視役? みたいなのがいるんですか?」

「あー……そんなの単純な理由だよ。一年、二年、三年。それぞれの学年の球技大会の時期になると、女子のブルマ姿が見たいという気色悪い下心丸出しの男子が、バレーの練習を見にこっちに来るんだよね」


それは本当にキモいな……


「それで、毎回練習に関わらない学年の誰かが、監視役をやってるってわけ!」

「なるほど……でも、苦じゃないんですか? こんなくだらないことのために一仕事しなきゃいけないなんて」

「いや、全然。むしろ私が積極的に自ら引き受けたようなものだよ?」

「あ、そうなんですか!?」

「うん。この監視役ね。受験とか就活に結構有利になるんだよねー。だから、私みたいに立候補する生徒の方が多いんだよね」


なるほどな。俺も引き受けようかな? 受験有利になるなら……


「あ、ちなみに女子を守るためだから、男子は立候補できません!」

「ああ……はい」

「それより、愛しの彼女さんの応援しに来たんでしょ? 早く入りな!」

「そ、そうですね!」


そして、俺はようやく体育館に足を踏み入れようとしたのだが……


「よっ! 流川君!」


ん?


「あっ……る、瑠夏くん!」


え?


「デュフフフフフ……」


は?


「そこにいるのは我が友、流川氏ではないか!」


急に四人の男たちからいきなり声をかけられた。しかも全員知ってる顔と声だ……俺と同じサッカーチームメイトの山田君、城山君、村々君、兄目君だ。


「な、なんだよみんな……? なにしに来……」

「あのーすみません先輩! 僕たち、流川君の友人なんですよー!」

「あ、あの……ちょうど待ち合わせしてたところだったので」

「デュフフフフフ……俺たちも体育館に入れてもらえますか?」

「ですよね! 流川氏!」


なるほど……こいつらみたいなやつらのことか。体育館にやってくる下心丸出しの男子たちというのは!


 ――よし、お帰りいただこう! 先輩、よろしくお願……


「あー、流川君のお友達? で、約束してたんだ。それなら体育館に入って、どうぞ」


おおおおおおおおおおおおおおおおい!!

セキュリティガバガバじゃねぇかあああああああああ!!!

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