思い出話
「いやー……まさかな」
「こんなことになるなんてな……」
教室にて。充希と俺はトーナメント表を見つつ、お互いの顔を合わせ、ぼやいた。
トーナメント表に書いてあるDチーム……つまり、俺たちのチームと対戦するのは、矢場杉高校のD'(ダッシュ)チームである。そして、そのD'チーム(というか、矢場杉高校全てのチーム)は、ご丁寧にメンバー一人一人の名前が記してあった。
【D'チーム(矢場杉高校)】
・ミナミコウ(キャプテン)
・ミウラカズヒト
・ダイボウソウ
・ハタノカイ
・タニオカマコト
・ウチダサダオ
・オオゾラシュン
・カザマユウ
「いや、これは本当にやばいぞ……まさか球蹴りのコウといきなり当たることになるなんて」
「な、なぁ充希……そのコウって人、たまたま名前が同じだけの別人じゃないか? ほら、俺たちの名前は男にしては珍しい女寄りの名前だけど、『コウ』って名前の男は結構多いし。それに、俺が小さいころに遊んだ男の子の名前もコウっていう名前だぜ?」
俺は口から出まかせを言い、現実逃避をした。その現実逃避は、ある意味俺の願望なのである。
ちなみに、俺とは違い充希は自分の名前が中性的であることは全くコンプレックスに感じていない。それを分かったうえで、そう言ったのである。
「瑠夏。俺昨日部活の休憩時間のとき、友達の友達……ウジの中学時代のダチに確認したんだけどさ。矢場杉にコウって名前のやつは一人しかいないんだってよ」
「マジか……」
現実は非情であった。
「でもまぁ、瑠夏。よかったじゃんか」
「え? どういうこと?」
「ほら。もしもお前が小さいころに遊んだコウってやつと、球蹴りのコウが同一人物だとしたら……説得して棄権してもらえることだってできるかもしれないぜ?」
「充希……」
充希の目の焦点は合っておらず、汗とヨダレをダラダラ垂らしていた。いつもの頼れる俺の親友はどこへ行ってしまったのか……
しかし、俺にとっては頼れる親友であり、サッカー部ではエースのこいつがこんな状態になるということは、相当コウがサッカー部にとって恐ろしい存在なのだろう。
「コーくんか〜……懐かしい名前!」
「し、紫苑……聞いていたのか?」
急に俺の後ろから紫苑が話しかけてきた。本当にいきなり現れるなこいつは……
「うん。二人がトーナメント表を持って、教室に戻ってきたらあたりからだね……」
最初からじゃねぇか……
「それにしても懐かしいねー……初めて会ったときは遊び場の取り合いで喧嘩してたのに、るーちゃんのおかげで仲良くなって、それからは放課後四人で毎日遊んでたよねー!」
そしてこいつはいきなり昔話に花を咲かせた。
「いやー……もしかして、その矢場杉高校の有名人さん、コーくんと同じだったりして! もしそうだったら、紫苑も会いたいなー!」
「はぁ……お前まで充希と同じことを」
そもそもお前は追試で球技大会には行けないんだよな……
「えー? でも、本当に同じ人かもしれないよー? ね? 三葉くん!」
【へんじがないただのしかばねのようだ】
と、やけにハイテンションな紫苑は死んだ顔の充希に話しかけた。だが、俺はわかっていた。そのコウと俺たちと昔遊んだコウは別人だってことを……
「あのさ……俺、そこまで覚えていないんだけどさ。矢場杉高校のコウは本当に違う人だと思うよ?」
「なんでそう言い切れるのー?」
紫苑は不満そうな顔で俺を見つめていた。
「だってそいつら、俺らより歳上だっただろ」
「はっ……」
「やっと思い出したか……てか、お前も覚えてんだろ。当時の俺たちはたしか小三で、コウたちは小六。三個上だっただろ? で、遊んだの期間もたしかコウたちが中学に上がるときまでだったから、おおよそ半年くらいだったな。俺も覚えてるぜ? 最後に会う日は、いつかまた会おうってバグし合ったな〜」
おっと、俺まで昔話に花を咲かせてしまったな。
「いや……そうだった。でも遊んでるときは年齢とか気にしなかったし、紫苑の中では同い年って感覚だったんだよ。紫苑、わかってるはずなのにちょいちょい忘れるなー」
「いや、まぁ小学生の頃は歳上歳下だろうが関係なしにお互いタメ語で喋って友達って関係になりやすいからな。俺だって忘れるときあるよ。中学からは歳上に敬語推奨とか意味わからんよな」
「ねー」
そして俺と紫苑は、死んだ顔をしている充希を尻目に、『小学校時代の友人の方のコウ』の話を続けた。
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