ゲームスタート
「じゃあ試合開始!」
充希の合図で、サッカーゲームが始まった。
「えーっと……どうしたらいいのかな」
「流川氏、近くにいる私に向かってボールを渡してくださいでござる!」
「ああ……わかった」
俺は言われるがまま、兄目君の足に向かって軽くボールを蹴った。
「では、行くでござる! 流川氏、私についてきてください!」
「ちょっ……」
やけに気合の入っている兄目君は急発進する電車のごとく、走り出した。彼のスピードは意外にも早く、俺は彼についていくのに必死だった。
「そ、そうだった……兄目君は元野球部だ。だからこんなにスピードが早かったのか」
俺は今まで忘れていたことを思い出し、彼の足が早い理由に納得した。
「アッアッ……こ、ここからは通さない、です……」
「ウェーイ! 行かせないぜ!」
「くっ、このままじゃボールを取られる…… 流川氏!」
「え?」
兄目君の声で、俺にボールをパスする。という意図は理解できた。しかし
「ちょっ、ボール早! あっ……」
あまりのとっさのことだったため、ボールを受け取るタイミングが合わず、逃してしまった。
「や、山田君! ボール! ごめん!」
「え? おわっ! マジか!」
どうやら山田君は上の空だったようで、俺が呼びかけたときにボールが迫っていることに気づいたようだ。
「ど、どりゃあああああああああああああ!」
「え!? ちょっと!?」
山田君は急にジャンプしたと思いきや、ミサイルのように頭から地面で転がっているボールに向かって突っ込んだ。
「いてえええええええええ!」
しかし、ボールに頭は当たらず、固い地面に頭をぶつけた。そして当然と言うべきか、山田君は頭を抱えながら、左右にゴロゴロと回りながら悶えていた。
「や、山田君……」
「山田氏……」
俺たちはそんな山田君をただ呆然と見ることしかできなかった。
「よっと……一旦タイム!」
充希はいつの間にかボールをキャッチしており、氏真のチームに大声で知らせながら、俺たちのところへやってきた。
「山田……お前なにやってんだよ。急にとんだと思ったら地面に向かって突っ込んでさ。なんでそんな意味不明な行動をしたんだよ」
充希はやれやれとため息をつきながら、倒れている山田君に顔を近づけ、あの動きをした理由を聞いた。あの場面はキーパー役の充希も一部始終見ていたようである。いや、キーパーだからそりゃ全体は見えるわな。
「ふっ……僕の漫画で使う予定の必殺技、ミサイルヘディングショットだ」
……なに言ってんだこいつは
「なるほど。山田氏は自分の考えた技を実際に使いたかったでござるな?」
「ああ。そんなところだ」
「……頼むから普通にサッカーしてくれ。別に勝てなくてもいいんだからさ」
充希はすっかり呆れていた。そして、ボールを村々君に投げ渡した。
「次はお前らのチームからやってくれ」
「デュフフフフフ……わかりました」
――こうして、氏真チームにボールを渡す形で後半戦(?)がはじまった。
▲
「よし、流川君。君が中村チームからボールを奪え」
「え? 俺!?」
「期待してるでござるよ」
「ちょ、ちょっと!?」
山田君と兄目君は励ましの言葉をかけ、俺の右肩をそれぞれ叩いたあと、ポジションについた。
「大丈夫だろうか……俺。いや、でもまぁ素人相手だし。でもなぁ、原君がスポーツ得意そうなんだよな」
ただの練習のはずなのに、俺はいやに緊張していた。そのとき
「瑠夏ー! ファイトー!」
「ん!?」
どこからか俺を呼ぶ声がする……そう思い、周りを見回してみるとグラウンドを囲っている黒色の網越しに、梨音が見えた。
彼女は緑色のブルマを履いており、膝にバレーボールの試合でよく使うサポーターを付けていた。
「り、梨音!」
「瑠夏! 頑張って! ファイトー!」
「よ、よぉぉぉぉぉぉぉぉぉし! 俺、頑張るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
梨音から応援の言葉を貰ったことで、俺の緊張は情熱とやる気に変わった。
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