彼女の応援

「瑠夏ー! ファイト! ファイト!」

「り、梨音……」


 梨音が来たと知った途端、俺以外のやつらも彼女の方を向いた。


「デュフフフフフフフフフ……か、門矢さんだ。ブルマ履いてるだけあって、身体つきがエロイな」


 村々君はヨダレを垂らし……


「うえええええええええええええええええええい! キャワイ子ちゃんがいるぜ! 俺っちのやる気も爆上げだ!」


 原君は両手で謎のハンドサインをしながら、大声を出し……


「あっ、あっ……ふひっ! か、門矢さんかわいい……」


 城山君は小刻みに震え……


「あの人が門矢梨音さんか~……噂通り美しいな」


 氏真だけ唯一まとも且つ、冷静に梨音への印象を述べた。そして、後ろを振り返るとと……


「おお! あの方はクラスの高嶺の花と言われている、門矢梨音嬢ではないか! CVが私の推しだったら、絶対に惚れているでござる!」


 兄目君は血眼で梨音を見つめ……


「美しい高嶺の花が見れるなんて! ちょうど僕が描く新作のヒロインは門矢さんをモデルにしようと思っていただけに筆がナルゼ!」


 山田君はなぜかスケッチブックを取り出し、なにかを描き始め……


「はは……」


 充希は微笑みながら、うんうんと頷いていた。


「充希い……」


 梨音が現れたときのみんなの反応は十人十色だが、やる気が一気に急上昇したことに変わりはない。


「じゃあ、試合開始!」


 こうして、充希の合図で試合が始まった。


「よっ!」

「行くぜうえええええええええええええええええええい!」


 原君にボールが渡った途端、彼は勢いよくこっちに突っ込んできた。まるでイノシシのように。


「くっ……」


 やっぱり陽気なやつなだけあって、すさまじいな……このまま俺も突っ込んでボールを取ろうとしたら、確実にぶっ飛ばされる! くそっ!


「お、おい流川!」

「なにやってるでござるか!?」


 俺は原君の勢いに気圧され、背中を向け、充希のいるゴール近くまで逃げてしまった。


「仕方ない……流川氏が無理なら!」

「僕たちがやるしかない!」


 兄目君……山田君、ごめん!

 俺は味方の二人に頼りきってしまう事実に、胸が痛んだ。しかし


「うええええええええええええええええええい!」

「「ぐわああああああああああああああ!」」

「兄目君! 山田君!」


 陽気な声と二人分の悲鳴が耳に入り、思わずそれが聞こえたほうに振り向くと、倒れた兄目君と山田君。そして勢いよくこちらへ向かって突っ込んでくる原君が目に映った。


「あ、ああ……」


 俺はその原君に対して、恐怖心を覚えた。


「瑠夏! 無理はするな! 俺が受け止めるから! お前は逃げろ!」

「み、充希……!」


 俺はその言葉を聞き、安堵し、フィールドの端に移動した。しかし、同時にこの考えも頭の中に出てきた。


(充希はああ言っていたけど……逃げていいのか? 運動嫌いを理由にそんな情けないことしていいのか!? そもそもこれは、充希と氏真が一生懸命先輩に交渉してまでグラウンドの場所を確保してくれたんだぞ!? それなのに、ボールにも触れず、結果も出せず……これでいいのか?)


 俺は深海のように深く、深く悩んでいたが……


「瑠夏ー! ファイト! ファイト!」

「!?」

「ファイト! ファイト! ファイト―!」


 そうだ……充希や氏真だけじゃない! バレーボールの練習中なのに、俺を応援しに来た彼女! 梨音がいた!


 俺は彼女の方に顔を向け……


「梨音ー! 俺、がんばるから!」

「瑠夏!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺はフィールドの端から走り出し、充希の前に立った。


「うええええええええええええええい!? 流川きゅん!? 急に来た!?」

「おい瑠夏!? 危ないぞ!」

「いいんだ! これで!」


 同じ学校の相手を恐れるな……本番は不良校のやつを相手にするんだ! ビビっている暇なんてないさ!


「うえええええええええええええええええい! 流川きゅん! 陽のパリピキックをくらえ!」

「瑠夏! 危ない!」

「……」


 さすが陽キャだ……ボールの勢いもキック力もすごい。だが!


「おらああああああああああああああああああああああああ!」

「る、瑠夏!?」

「流川きゅん!?」

「流川氏!?」

「流川!?」


 俺は顔面で原君のシュートを食い止めた。


「いってえええええええええええええええええええええええ!」


 俺は顔に痛みを感じながらも、前半戦(?)の山田君みたいに倒れ込むことはなかった。そして、そのまま転がっているボールを手(足だけど)に入れた。


「まだまだ終わらねえ! 本番はここからだ!」

「ああ……ぶちかませ! 瑠夏!」


 俺は充希の方を向き、自分のやる気を見せた。

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