弱小チーム

 ――ここはサッカー部専用の校庭。肝杉の校舎から少し離れた場所にある。サッカー部所属の充希ともう一人、中村氏真(なかむらうじざね)に案内してもらい、ここまで来たのである。中村君も俺と充希と同じチームである。そんな彼は充希と共にサッカー部の先輩二人にグラウンドを使わせてくれないかと交渉している最中だ。


「というわけで先輩方、申し訳ないのですが俺たちに球技大会の練習をさせてくれないでしょうか?」

「いやいや……球技大会とかド素人たちが半ば強制参加させられたお遊びだろうが」


……まぁ、真剣にサッカーやってる人たちからしたらそう思うわな。

ちなみに、充希と中村君以外の俺たちは五人彼らから五歩ほど下がった場所で手を後ろに組み、佇んでいる。


ここで、他のチームのメンバーを紹介しよう。元・野球部で現在は演劇部所属の兄目大輔、帰宅部で暗い城山松陰(きやましょういん)、常にニヤニヤしている村々妄太(むらむらもうた)、今は大人しいが、普段は騒がしいらしい原陽(はらよう)、漫画部所属の山田博(やまだひろし)である。総じて、運動に向いていないやつらの集まりである。

……そりゃあサッカー部も反対するわな。


「先輩、俺だって嫌ですよ。あんな実力もなさそうなやつらと練習するの……でも、球技大会参加したら単位貰えるんですよ。それを貰えるからには、真剣に練習してそれなりに矢場杉のやつらに太刀打ちしないと」

「え、そうなのか? ウジ?」

「おい……黙ってろミッツ」


中村君が説得力のあることを言った直後、充希が余計なことを行ってしまった。そのせいなのか、彼の声色が苛立っているような刺々しいものになった。


「お、俺はただ単位が貰えるからなんとなく参加した感じなんですけど……ま、まぁウジと同じ理由です。なので先輩、お願いします」

「お願いします」

「「「「「俺たちからもお願いします!」」」」」


充希、中村君に続き、俺たちサッカー部無所属組も頭を下げ、サッカー部の先輩に頼み込んだ。


「まぁ仕方ねぇな。球技大会まで一週間しかないし」

「俺たちは俺たちで、公園とか河川敷とかで練習するよ」

「「あ、ありがとうございます!」」

「……ほら、お前らも」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」


中村君に促され、俺たちは一斉にお礼を言い、先輩たちに頭を下げた。


「ただし、使っていいのは今日と明日の二日間だけだ。球技大会とかというくだらん大会のために、俺たちサッカー部の大事なグラウンドを一週間も貸すわけにはいかないからな」

「たしかお前ら一年生の球技大会は二週間後だったな。まぁ、せいぜい頑張れよ」


と、先輩たちは挑発的な態度をとりながら去っていった。しかし、不思議とムカつかなかった。なぜなら、それが事実だからである。


「よっしゃ! 交渉成立だな! それじゃあ、球技大会の練習はじめるか!」

「「「「おー……」」」」

「どうした? 声が小さいぞ? もう一回!」

「「「「お、おー!」」」」


俺を除くサッカー部無所属組は充希の呼びかけに、一回目はやる気のない返事をし、2回目の呼びかけには無理やりやる気のある返事をした。ああ……これは充希サッカー部モード入っちゃってるな。


「あの、中村君」

「おう。どうした? えっと……瑠夏って言ったか。いつもミッツが世話になってんな」

「いやいや、こちらこそ。それより、やっぱり俺たちド素人と組むのは嫌だった? 無理して俺たちと付き合わなくていいよ?」


俺はなるべく中村君の機嫌を損ね、嫌な空気にしたり練習中断にならないよう、事前確認を取った。できればこの子にも気持ちよく練習してほしいし。


「まぁたしかにお前らド素人と一緒にサッカーとかしたら、足を引っ張られそうでいい気はしないな」

「そ、そうだよな……」

「だが、たまの息抜きに素人共とチームを組むのは悪くねぇな。普段からレベルの高いバチバチのやつを部活でやってるからな。だから、俺とミッツの気持ちは気にするな。それに、サッカーの実力は置いておいて、ミッツの親友がどんなやつかも気になっていたしな。瑠夏、お前とチーム組むの、楽しみにしてるぜ」

「あ、ああ……ありがとう。中村君」

「あと、俺のことは氏真って呼んでいいぞ。俺だっていきなりお前のこと名前で呼んだからな」

「わかった。よろしく。氏真」

「おう、瑠夏!」


充希、さっき「運動部がいいやつ面するのは運動部のやつらにだけ」って言ったこと、撤回するぜ。

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