球技大会は憂鬱ばかり!

流川瑠夏の憂鬱

 ――テストの結果が返ってきた翌日の教室、俺は自分の席でため息をついてきた。


「はぁ……やっぱり不安だよ」

「なんだよ瑠夏〜昨日まで彼女のブルマが見れるって言いたげな顔で興奮してたのに」

「い、いやいやいや! なんで知って……いや、思ってないからそんなこと!」

「ははっ、図星だな」

「くっ……」


やっぱり俺、表情に出やすいのかな……幼馴染の紫苑はともかく、いつも梨音や充希にまで心読まれてるからな。さらにはこの前亜姫にまで読まれたし。


「で、なんで落ち込んでんだ?」

「そりゃあ、運動が嫌だってこともあるけどさ……よりによって矢場杉との合同大会なんだぜ? あんな不良学校にいくとか、命がいくつあっても足りないよ」

「そうか? 俺はむしろ楽しみだけどな」

「いや、なんでよ」

「サッカー部の先輩が言ってたんだけどさ、矢場杉にはサッカーの実力がすごい一年生がいるんだってさ。名前はたしか、『球蹴りのコウ』って言うんだが……」


コウ……懐かしい響きだな。


「実力ね……まぁ、喧嘩でよくボールという名の人を蹴ったりしそうだし、な」

「お前はお前で矢場杉に偏見持ちすぎだよ……大丈夫だって。俺と同じ部活の同級生、矢場杉のやつとダチらしいんだけどさ、いいやつだって言ってたぞ?」

「そのいいやつがそうなるのはあくまでお前ら運動系のやつらの前限定であって、俺たち陰キャに対してはいいやつとやらになるのは限らないぞ……」

「あー! もうめんどくせぇな! とにかく、参加すると決めた以上、お前は俺たちと一緒に矢場杉に行かなきゃならないんだからな! 覚悟は決めろよ?」


え? おいちょっと待て!


「矢場杉のやつらが肝杉(うち)に来るんじゃないのか?」

「いや、肝杉(おれたち)が矢場杉(むこう)へ行くんだよ。二年生は今お前が言ってた通り逆なんだけどな」

「マジか……ただでさえ矢場杉のやつらと関わりたくないのに、物理的に校舎に行くハメになるのか」


俺はその事実を知った途端、身体中の温度が一気に下がるような感覚がした。


「大丈夫だ、瑠夏。いざとなったら俺が守るぜ」

「ちょっと! 瑠夏を守るのは私よ!」

「おわっ! 急に来たな門矢!」

「だって瑠夏と三葉君、二人きりで話し込んでいたんだもの。私も混ぜなさいよ」

「いや、大した話はしてねぇよ。ただ、瑠夏の相談に乗っていただけだ」

「瑠夏、どうしたのよ?」


梨音は俺に聞いてきた。


「いやぁ……矢場杉との球技大会があるじゃん? で、今俺たちが矢場杉高校に招待される側なんだけど、俺としては行ったらやばいなって。変なやつに絡まられでもしたらさ。不安なんだよ」


俺はありのまま抱えている悩みを梨音に話した。


「それならサッカーの試合以外は、私の側にいたらいいわよ。三葉君じゃどうも頼りないし」

「おい」

「とにかく、瑠夏は私が守るから安心しなさい」

「わ、わかった……なら大丈夫だな」


梨音の言葉によって俺の心は落ち着いたが、充希は頼りないと言われたことが相当気に入らなかったのか、むくれていた。


「そういや充希、本当に俺と同じチームでいいのか? 俺なんかじゃ頼りないだろ?」

「あー……そんなことは気にしないでいいぞ。俺のチーム、お前以外にも運動できないやつそこそこいるから」


俺は充希の機嫌をどうにかするため、彼に話題を振った。


「でもそれじゃあ、充希のワンマンになるんじゃ……」

「心配するな。何回か練習あるし、最悪俺がお前らにレベル合わせるから。まぁ、相手が異常に強かったら俺のワンマンになる可能性はあるけど」


なお、充希以外のチームも強弱と極端なメンバーが揃っているのである。サッカー部、バレーボール部、バスケ部は意図的にチームをバラされている。その理由としては、チームのパワーバランスを均等にするためとのことである。わざわざそんなことするなら球技大会なんてやらなきゃいいのに……


「まぁ、例えお前をはじめ運動不足組が俺の足を引っ張ろうとが、目くじらなんて立てないさ。俺の実力は、サッカー部で解き放てばいいんだからよ」


充希も充希で、球技大会をお遊びかなにかだと思っている節がある。


「そういやそろそろ練習時間か……行こうぜ瑠夏。門矢もバレーの練習急いでいけよ」

「わかったわ」


まぁ、そんなこんなで俺たちは球技大会に向けての練習を始めるのであった。

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