梨音先生のウデガナルゼー
――図書館
「ほら紫苑、ここはこうして……それでね」
「うーん……わからない」
「はぁ……だからね」
今、梨音は紫苑に勉強を教えている。紫苑は全く理解していない様子だったが、それでも投げ出さずに根気強く教えている。さすが、俺の彼女だ。優しさと根気強さと賢さ……全てを兼ね備えている。
その様子を傍らに、俺も俺でテスト範囲の予習をしている。のだが……
「あの、梨音……ここ教えてくれないかな? これだけはマジでわからなくて」
「あ、ごめん瑠夏。今、紫苑で手一杯だから……」
「あ……はい」
というやりとりを、さっきから三回くらい繰り返している。
たしかに紫苑にかかりきりだから俺に構っている暇がない気持ちは理解できるのだが、根気よく教えても理解できない紫苑と、もしかしたら理解できる可能性のある俺。明らかに俺に教えた方が効率がいいのではないか……? 俺は頭は悪いが、紫苑には負けない自信はある!
「あの、梨音……? お、俺にも勉強を」
「瑠夏はあとで。というか、瑠夏に勉強は必要ないから」
「え!? さっきテストの攻略法を教えるって……?」
「それは建前よ。紫苑は頼まれたからやってあげてるのよ」
そ、そうか……紫苑は土下座をしてまで梨音にお願いをしたんだ。だったら俺も
「いや、土下座はしなくていいわ。というか、お願いもしなくていいから」
「でも、頼まないと……じゃないと失礼だし」
「私が言いたいのは瑠夏が頼んできたからとか、そういうことじゃないのよ」
「じゃあなんで?」
「瑠夏を養うためよ」
え……?
「は? り、梨音ちゃん? 今なんて?」
「瑠夏は私が養うわ。だから、勉強する必要はないのよ」
「ちょっと! それはひどくない? 瑠夏のためにも、紫苑のためにもならないよ!」
紫苑のいう通りだよ……俺だって苦労してこの高校入ったんだからさ。そりゃあ、テストはせめて赤点回避はしないと。
今まで勉強をろくにしなかったやつが今更なんだって話だけどさ。
「あと、るーちゃんを養うのは紫苑だから!」
うん。それは分からない。
「だから、それは私並みの成績になってから言いなさい。まぁ、例え地球が百周……いや、二億周して、紫苑が私を超えたとしても、瑠夏を奪わせはしないけど」
「くっ……ふんっ!」
紫苑は完全に論破され、これ以上梨音に歯向かうことはせず、教科書にじぃーっと目を通した。そしてそれを見た後、テキストを開いて、ノートに書いた。
「どう? 梨音ちゃん?」
そして、梨音にノートを見せた。
「ふむふむ……すごい! 全部正解よ」
「よしっ……」
「さっきまであまり意味を理解してなかったのに……どうしてかしら?」
「……梨音ちゃんへの対抗心? かな?」
「……そんなこと言うなら、教えてあげないわよ?」
「ごめんなさい……」
「よろしい」
やっぱりこの二人、仲良いんじゃ……でも、口には出さないようにしなきゃ。また怒られてしまうから。
『生徒会から連絡です』
『流川瑠夏! 流川瑠夏! まだ学校にいるだろうか? できることなら一人で、生徒会室に来てくれるだろうか。キミに個人的に用事がある!』
唐突に放送が図書館室中に鳴り響いた。
「な、成司先輩……? 行った方がいいのかな?」
「待って。私も行くわ」
俺が椅子から立ち上がった瞬間、梨音から腕を掴まれた。
「瑠夏、この前成司からされたこと、忘れてないわよね?」
「ああ……うん。あれは恐ろしかった」
「君子危うきに近寄らず、よ。だから私と一緒に来なさい」
「君……なに?」
俺は彼女の言っている言葉の意味は理解できなかったが、とにかく危ないと警告していることはわかった。
「とにかく一緒に行くわよ。紫苑は私が帰ってくるまで、テキスト3〜6を解いてて。後で答え合わせするから」
「わかったよ」
「じゃあ、行ってくるわね」
はぁ、今度は俺、成司先輩からなにされるんだろうな……
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