進学校と不良校

そう。この肝杉高校はそこそこの進学校なのである。ここの高校は家から近いから通えるのが楽という俺の考えと、将来的に俺を楽にしたい親の願いが合致し、ここを受験したのだ。


なぜアホな俺がここの受験は通ったのか。それは、「ここ落ちたら俺は矢場杉高校に行かされるんだ……」と念じていたためである。


矢場杉高校とは、さっき先生が言ってた通り、肝杉高校のお隣の学校……というか、一方的に矢場杉がウチに張り合って来てるだけらしい。肝杉が進学校なら、矢場杉はさしずめ自称進学校……と言ったところだ。だが、それも俺が志望校を選んでいた中二までの頃の話で、この時期自称進学校の方針にブチギレた生徒たちが暴動を起こしたことがキッカケで、近所で有名な不良校と化してしまったのだ。先生はさっき留年生が複数人出た。と言っていたが、その中には学業不振だけでなく、暴力沙汰が原因でそうなった者もいるのかもしれない。


 ――なぜ俺がここまで知ってるかって? 俺の通ってた中学でも、そんな噂になっていたからだ。


「いや、るーちゃん本当に……よく矢場杉送りにならなかったね」

「お前だって……よくここ来れたな」

「当たり前じゃん! るーちゃんへの愛情が紫苑をここまで頑張らせてくれたんだから!」

「……まぁ、入学した後も頑張らないと意味ないんだけどな。俺が言える立場じゃないけど」

「大丈夫。るーちゃんが留年したり、退学したら、紫苑が養ってあげるから!」

「いやいや、お前も危ないんだろ?」


と、俺たちが傷の舐め合いをしていると。


「そうよ! 二人とも、テスト追試にならないように頑張りなさいよ! 瑠夏は最悪私が養うとして……紫苑は私がどうこうできないから、ちゃんとテスト合格しなさい!」


おい、ちょっと待て。今、なんと!?


「なっ!? 瑠夏を養うのは紫苑だよ!」

「でも、今の紫苑じゃ養えないわ。まぁ、例え紫苑が養えるレベルだとしても、瑠夏は渡さないけどね」

「ぐぬぬ……」

「ふんっ……」

「じゃあ、梨音ちゃん! どっちが瑠夏を養えるほどの成績をおさめられるか、勝負して!」


お、おい! 学年一位に張り合うなんて、そんな無謀な……


「あ、あのさ紫苑……お前入学時のテスト何位だった?」

「な、八十位くらい……?」


下から数えた方が早いじゃん……ちなみに俺は七十七位だった。その順位が充希にバレたとき


「おっ、瑠夏! ラッキーセブンじゃん! ははははははは!」


と、からかわれた。マジであのときの充希ウザかったな……


「マウントを取るつもりも自分の成績を鼻にかけるつもりはないけど……その順位で私と張り合うつもりなのかしら?」

「り、梨音ちゃん……」

「なに?」

「今回は勝ちを譲るので紫苑に勉強を教えてください!」

「よろしい」


と、紫苑は土下座をし、梨音に頼み込んだ。一瞬でプライド捨てたよこいつ……


「門矢梨音!」

「……今度はなんだよ」


このとき、教室の扉が開く音と、梨音の名をフルネームで呼ぶ声が聞こえた。


「ん?」


梨音もその人のほうを振り向いた途端、彼女は一気に梨音(と俺と紫苑)の近くにまで早足で来た。


「あっ、この人って……」


近くに来た彼女を見てわかった。隣のクラスの二宮千紘さんだ。生徒会書記にして学級委員長の……


「たしか学年成績は二……」

「ちょっとそこ! 声に出てるよ!」

「ああっ! すみません!」


多分あれだな。俺、二宮さんのことよく知らないけど、梨音をライバル視してるパターンだなこれ。フルネーム呼びとか、雰囲気とか、この前までの成司先輩みたいだし……今は違うけど。


「門矢梨音! 今月のテストでは、この私が、あなたに勝ってみせるから! 見てなさい!」


ほらやっぱり


「それであなたに勝って、成司副会長のことを振り向かせてみせるから! じゃあ!」


それを言った後、二宮さんはすぐに教室から出て行った。


「……なんだったのあの人? 梨音ちゃんのことライバル視してたけど」

「はぁ、迷惑しちゃうわ……成績で張り合うならともかく、恋に関しては一方的なのに。成司先輩は私のこと好きだけど、私は好きじゃないし」


梨音はやれやれと頭を抱えていた。


「……いや、待って。そもそも今、成司先輩が好きなのは私じゃなくて」


と言いながら、梨音はこっちを向いて来た。


「え……? あっ……」


このとき、俺は成司先輩からされた様々なことを思い出し、寒気を感じた。


「……いや、言わぬが花ね。もし本当のことを言って、私の瑠夏に危害を加えられたら、それはそれで嫌だし」

「ちょっと梨音ちゃん! 紫苑のるーちゃんだよ!」

「とにかく瑠夏、紫苑! 今から図書館行くわよ。そこでテストの攻略を教えてあげる」

「あ、ありがとう……」

「じゃあ二人とも、行くわよ!」

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