副会長の呼び出し
「いい? 成司先輩からなにかされそうになったら、すぐに駆けつけるからね」
「ああ、わかってる」
「本当はこんな小細工なんかしないで、ただ私も入りたかったんだけど、本当に一人でいいの?」
「いいよ。成司先輩も一人で来いって言ってたし」
「瑠夏がそう言うなら、止めないけど……」
「うん。心配、ありがと」
梨音の言ってる小細工とは、俺の懐に盗聴器を仕込んだことである。
「それにしても梨音、さも当たり前のような顔して盗聴器を渡してきたけど、やっぱり何個か持ってるの? だいぶ前に俺の筆箱にペン型のやつもこっそり入れてたし……」
「えっと……後、2、3個くらいね! うん!」
「……本当は?」
「……ごめんなさい。810個です」
大嘘すぎる……
「と、とにかく行ってくるから」
そして、俺はまた生徒会室へ入った……このパターン、あと何回やるのかな。
「……失礼します」
「おお! よく来た! 流川瑠夏!」
「ああ……はい」
いやにテンションの高い成司先輩に俺は恐怖を感じていた。
「あの……成司先輩、用事というのは?」
「ふふん。聞いて驚きたまえ……流川瑠夏、キミにあるものを渡したい」
「あるものってなんですか?」
「ふふふ、聞いて驚きたまえ」
「同じ言葉繰り返してないで早く言ってください……」
「わかった。じゃあ言おう。実は俺はな、一年生のテストの問題用紙を持っているのだ」
「と、答案用紙? そ、それ五月に行われたやつですか……? それなら俺も持っていますが……ぐしゃぐしゃですけど」
正直薄々察してはいたが、ワンクッションを置くためにマトハズレな質問をした。
「この時期にわざわざ五月の問題用紙を渡すわけないだろうが。二週間後に行われる七月のテストだぞ。なんなら、答えと解答用紙もあるぞ。安心したまえ、俺は目を通していない。そもそも、二年生のテスト情報はまだ届いていない。仮に届いたとしても、そのような行為をする気は毛頭ないがな」
「い、いや……俺にはその行為勧めているじゃないですか。どういうつもりですか?」
「決まっている。キミのためさ。キミは成績はよくないが、なんとしても赤点を避けたい。だから俺は、キミのためにこの提案をした。安心したまえ。ギリギリ赤点を回避するくらいの点数分正しい答えを書けば、バレることはない。最悪バレて、キミが学校を追われたとしても大丈夫だ。俺がキミを養うからな!」
あんたもそれを言うのか……てか、俺だけが責任取らされるみたいな言い方だけど、自分が学校を追われるって可能性を考えないのだろうか。
「どうだ? 流川瑠夏? この話に乗る気は……」
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「な!? 門矢クン!? なぜいる!?」
「成司先輩。甘く見てましたね。実は瑠夏の懐には、盗聴器を忍ばせていたんです」
「な、なんだと!? る、流川瑠夏! 一人で来いと言ったではないか!」
「先輩、この私が大事な恋人を一人で行かせるわけないじゃないですか〜。最初に瑠夏だけ生徒会室に入れて、成司先輩がなにか企んでいることが判明次第、私が駆けつけるという作戦を立ててたんですよ」
「くっ……」
「先輩〜この音声が流出したらマズイですよね? どうしますか?」
余裕な笑みを浮かべる梨音、歯を食いしばりながら彼女を睨みつける成司先輩。
どっちが有利か不利かは、俺の目から見ても明らかだった。
「わ、わかった……すまない流川瑠夏。この話は聞かなかったことにしてくれ」
「あ、はい……」
そんな風に謝られても、そんな手に乗る気は最初からなかったんだよな。
「行きましょう。瑠夏」
「わ、わかった」
梨音は俺の腕を掴み、半ば強引に俺と共に生徒会室から去った。
「はぁ……本当にあいつは。油断も隙もないわね。瑠夏、世の中には成司より悪どいやつがたくさん行くから、ほいほいついて行かないでよね」
「ごめん」
「もし今日みたいに呼ばれたら、また私と同伴すること。今度は一緒に生徒会室に入るわよ」
「わかった」
と、俺は梨音と約束をした。
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