不法侵入?

「瑠夏、じゃあね」

「ああ。いつも送ってくれてありがとうな」


ここは俺の家の前。今日は梨音が俺を家まで送る番の日である。


「なに言ってるのよ。いつものことじゃない」

「いや……当たり前とは思いたくないからさ。梨音がいなかったら成司先輩と亜姫からダブルストーカーされる可能性だってあるし」

「そうね。でも、それはお互い様よ」

「お互い様?」

「ええ。私だって、あなたに家まで見送ってもらってるもの。こっちだって助かっているわよ」

「いやいやそんな……」

「とにかく、悪質なストーカーには気をつけなさい。じゃあ、私帰るわね」

「ああ、じゃあね」


そして、梨音はこっちを見つつ手を振りながら、去っていった。


「ただいま〜って、誰もいな……」

「おかえり〜」

「ん……?」


今日も俺の両親は仕事でいない。だから、誰も家にいるはずはないのだ。なのに、遠くからおかえりの声がする。どうして……?


ただ、なんとなく誰なのか察しはついている……この特徴的なキンキンとした高い声。絶対あいつだ!


「!!」


俺は靴をそろえず雑に脱ぎ捨て、カバンを床に投げ捨て、ドタドタと音を立て、リビングに向かって走った。


「し、紫苑! なんでいるんだよ!?」


紫苑がソファに腰かけ、テレビを見ていたのだ。人の家で! 堂々と!


「いや、るーちゃんのことが心配だからだよ。幼馴染の心配して、なにが悪いの?」

「いや悪いわけじゃないけど、家いるならメッセージ送ってくれよ」

「うーん……サプライズ?」

「なんで疑問形……?」


ちなみに、紫苑は以前まで俺の家の合鍵を持っていたのだが、梨音とのデート後の事件の後、しお姉から合鍵を没収されている。だから、どうやって俺の家に侵入したのかが謎で恐ろしい……怖い。


「るーちゃん! どうやって紫苑が流川家に来たのか、知りたがってる顔だね!」

「いや、うん……俺、えらく具体的な顔してたのか?」

「してたね〜ちなみに、二階の窓からうまく侵入したよ〜」

「あー……」


俺は納得がいってしまった。なぜなら、小学生のとき、紫苑は度々窓から侵入しては俺を起こしていたからだ。もうこれ以上突っ込むのも面倒だと思い、話題を切り替えることに決めた。


「そういや紫苑、俺のことが心配ってなにがあったんだよ? また梨音にちょっかいかけるつもりか? それとも、また亜姫が変なことしてるのか?」

「いや、どっちでもないよ。でもるーちゃん、別の人から狙われてるから気をつけて。色んな意味で」

「別の人……はっ!」

「……るーちゃん、露骨に心当たりがあるような顔したね」

「う、うん……もしかして紫苑、その人からなにか言われた?」

「言われたというか、るーちゃんのことめっちゃ聞かれて……最初は弱点を探るためって思ったけど、明らかに目がヤバかったから、多分、いや絶対にるーちゃんのこと狙ってるよ」

「……」


俺の心はいつになれば休まるのだろうか……

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