副会長の個人的な仕事

 ――放課後。俺が呼び出したあの男が生徒会室へやってきた。正直、部活を優先してバックれられるのでは? という気持ちも少々あったのだが、来てくれてよかった。


「失礼します……」

「おお! 百葉クン! 待っていたよ!」

「いや、葉っぱの数増えすぎじゃないですか? 俺は三葉ですって……」

「おっとすまない……」

「成司パイセン、わざとやってませんか?」

「はははっ」

「笑って誤魔化さないでください……」

「まぁ、いいから。座りたまえ。俺がキミを呼び出したのだから」

「は、はい」


ちなみに、今二宮クンはいない。今日は俺の個人的な用事なのだから、彼女がついている必要はないだろう。そう思い、先ほど俺は部活へ行くように促した。なので今、彼女は部活動に励んでいることだろう。


「それでパイセン……俺に用事ってなんですか?」


二葉クン、いやに険しい顔をしているな……恐らく事実上生徒の中で一番偉いこの俺に呼び出されて、不安になっているに違いない!


……それ以外にも、サッカー部がなにかしらの処分をされるのでは? と不安がっているのだろう。この前の野球部部員削減に関しては、賛否両論の声が相次いだからな。だが、心配無用だ。


「四葉クン。サッカー部は全体的に優秀な者が多いから、どうこうするつもりはない。予算も無駄にはなってないしな」

「あぁ……はい」


あれ? 反応が薄いな……? とにかくリラックスをさせなくては。不安な生徒の心を落ち着かせるのも、生徒会の仕事だ。


「ちょっと待っていてくれたまえ」


俺は一旦席を外し、冷蔵庫を開けた。そして、そこからごぜティーを取り出した。


「新発売のピーチティー味だ。受け取りたまえ」

「あっ、ありがとうございます」


そして、それを彼に渡し、席へ戻った。


「それでは、本題から入ろう。キミに個人的に聞きたいことがある」

「はい……」

「キミは流川瑠夏とは特に親しい男友達と聞いている。だから、キミの視点から見た流川瑠夏という人間を教えてくれ」

「な、なんで急に瑠夏の話を……気持ち悪いですよ」

「なっ!? 俺はただ純粋に流川瑠夏という人間を知りたいのだよ! 頼むから聞かせてくれたまえ! 可能な限りでいいから!」

「わ、わかりました……」


はっ……しまった! 俺としたことが、つい熱くなり過ぎてしまった。心なしか、十葉クンの顔もどこか引き攣ってるようにも見えた。


(な、なんで急に瑠夏のことを必死に……? まさか、瑠夏の弱点でも探して門矢をNTるって魂胆か? いや、まさかな)


と、とにかく落ち着くんだ俺……落ち着き、冷静に流川瑠夏のことを聞き出すんだ。


「瑠夏はちょっと優柔不断で、頼りないところがありますね。まぁ、彼女さんの束縛の強さを恐れて、その弱い部分により拍車をかけているようにも感じますが……」


束縛が強い? そうは見えないが……というか門矢クンが相手ならむしろ束縛されたほうが俺にとっては嬉しいのだが。

頼りなさそうなのは、俺の目から見ても感じたが……


「ちょっと、なにメモってるんですか!?」

「い、いや……今後の生徒会の仕事に活かせるだろうかって思ってな」


俺は流川瑠夏がどういう人間なのかという答えをまとめるために、メモ帳に言われたことを箇条書きで書いていた。だが、瑠夏のことをメモってるなんて言っては色々アレな目で見られると思い、それっぽい言葉で誤魔化した。


(今後の生徒会……? もしかして、瑠夏を生徒会にスカウトするつもりなのか? いやいやでも、こいつ明らかに瑠夏のこと敵視してたし、それはないか……?)


俺の誤魔化しに零葉クンは納得いってるようないってないようななんとも微妙な表情をしていたが、まぁどうにか乗り切れたか。


「流川瑠夏の欠点はわかった。では次に、彼の長所について教えてくれたまえ」

「長所ですか……基本的にいいやつで、友達である俺や彼女である門矢、幼馴染の平野に優しいんですよね。その子たちだけじゃなく、自分を刺した藤井にも例外じゃないです。本当、優しすぎて嫌になりますよ」


たしかにそうだ。明確に藤井クンに優しくしている場面は見たことはないが、同じクラスなのに不登校になったりもしていないし、全力で彼女を拒絶している感じでもない……同じく藤井クンの被害者でもある兄者は引きこもりになったのに、だ。人それぞれではあるが。


「……なるほど。優しくてハートが強いか」

「……そこもメモする必要あります?」

「気にするな。続けてくれたまえ。いいところでも悪いところでもどちらでもいいぞ」

「は、はぁ……では、藤井に刺されたときの話から派生しますが、こんな話もあります」

「おっ、なんだね?」

「門矢とか平野が逆恨みで刺されそうになったとき、命をかえりみず、身を挺して彼女たちを庇ったんです。最悪自分が死んでしまう可能性もあるのに……見殺しにするのは確かに最低ですが、俺だったらそんな勇気出ませんよ。止めることくらいしかできません」


門矢クンが刺されそうになったときは、平野クンがあのとき自首してきたあのときか……俺は少しだけ以前起きたできごとを振り返った。


(彼から見た流川瑠夏……それは優しくてハートが強く、自己犠牲の精神もある、か。ふむふむ)


俺は夢中になり、メモ帳に書いた。


「九葉クン、もう大丈夫だ。キミからみた視点の流川瑠夏がどんな人間か、わかった」

「そうですか……ではもう、この話は終わりで大丈夫ですか?」

「ああ、すまなかったな。呼び出して。もうキミに聞くことはないから、部活へ行きたまえ」

「はい。失礼しました」


彼は席を立ち一礼をし、扉の前でまた一礼をした後、生徒会室から去っていった。


「ふぅ……こんなものか。では、次は彼女に聞くとするか。彼女は部活に入っていないから、直接いいタイミングで声をかけるか」


俺は静まり返った生徒会室の中、明日ここへ呼び出す人間のことを考えていた。

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