親友と昼飯

 ――ある日の昼休みの時間。ある日と言っても、俺が成司先輩からストーカーされてから一週間と数日が過ぎたあたり(十日くらい?)である。


「はぁ~……久しぶりに友人と食う飯は最高だな!」

「ははは……」


 いつもの昼休みは、俺と梨音が屋上で食べているのだが、今日は充希と食べている。なんでも梨音曰く、今日だけ特別だから! とのことだ。


「たまには校内放送聞きながら、ここで食うのもいいよな。いつもはサッカー部のやつらといるから、もっぱら部室でさー」

「そうなんだ。でも、教室から部室棟って遠いから、大変だな」

「いや、本当にそれな!」


 ちなみに、俺たちは今学食で食べている。校内放送はここと、各学年の教室で聴けるのだ。そして、食べているメニューは本日限定のハンバーグ丼だ。


「いやー、それにしてもこの曲いいよな~!」

「えっと……たしか雪ダルマってグループだっけ?」

「そうそう! いまめっちゃ流行っててさー! サッカー部の先輩から勧められて聞いたら、あっという間にハマっちゃって!」

「そ、そうなんだ」


 言えない……俺、普段から聞いてる曲がマイナーどころか、皆無に近いことが。だから、メジャーからマイナーな曲、あらゆることすべてよく分からないんだよな。


(そういえば、梨音の好きな曲とか知らないんだよな。付き合ってからだいぶ経っているのに、音楽どころか趣味のこととか話そうともしないし。あっ、この前観たやばい映画は……趣味に入るのかな)

「おい、瑠夏」

「えっ……あっ、なに?」

「お前、今明らかに意識飛んでただろ」

「そ、そうかな……?」

「また愛しの彼女のこと、考えてただろ?」

「……う、うん」


 ああああああああああああああああああああ! 友達にまで俺の心を見透かされるなんて! 俺ってそんなに分かりやすい表情してるのだろうか。


「赤くなってんぜ。かわいいなおい」

「……うっせ」


 と、充希はからかいながら俺の頬をつついてきた。


『~……あー、失礼します。ここで業務連絡があります』


 雪ダルマの曲が流れていた放送は途中でぶつ切りにされ、わずかな雑音が数秒流れたあと、放送が切り替わった。


「なんだよ。せっかくいい曲聞いて心地よくなっていたのに……」


 充希は少し不貞腐れていた。


『え~肝杉高校生徒会からのお知らせです』

「ん? 生徒会?」

『一年生の八葉充希クン! 八葉充希クン! 放課後、生徒会室に来てくれるだろうか?』

「……」


 充希は校内放送を流しているスピーカーを睨んだ。


「あー、多分俺じゃないな。名前違うし。うん」

「いやいやいや……明らかに充希だろ」

「でも、サッカー部の練習あるし……」


 と、ぼやいた途端


『キミのことだ。放課後になればすぐにサッカー部へ足を運ぶだろう。それを見越して、事前に昼休みに放送で呼び出しという形にしたのだ! どうだ! この成司寿人の作戦は!』


 この学校、エスパー多いのかな……そして校内放送でも自惚れ発言をするなんて、もう何周か回って尊敬するわ。


「はぁ、もう面倒だから行くわ。部長には遅れるって伝えとくよ」

「いやいや充希、どうせくだらない話だって……あの自惚れ副会長だぞ」

「でも、野球部員削減の件もあるからな。だからワンチャン、サッカー部に関する重要な話かもしれないぜ?」

「……だったら普通、呼び出されるのは部長でしょ?」

「だよな~……まぁ、行くには行くけど」

「まぁ行くに越したことはないよな」


 だが、俺はなんとなくわかっていた。成司先輩がなぜ充希を呼び出したのか……


 ――それは、充希が俺と特に親しい男友達だからだ。そして、こいつを通じて俺のことを知るつもりなのだろう。なにせ、この前ストーカーしてたとき、俺のことを知りたいと言っていたからな。ま、充希には言わないけどな。だが、


「あ、あのさ充希」

「ん?」

「もしサッカー部以外のこととか聞かれたら、俺に言ってくれないか?」

「え、いいけどなんで?」

「いや、まぁ……俺も気になるからさ」

「そ、そうか。別に成司先輩から言うなって言われなかったら、言うが」

「おう、ありがとうな」


 ▲


 ――そして、その日の夜……


【⚽ミツキ⚽からメッセージが届いています】

「あっ、充希から連絡だ。どれどれ……」

『瑠夏、執拗にお前のこと聞かれたんだが、お前何かしたか……?』

「……はぁ、やっぱりな」

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