副会長の手腕

「よし。これで野球部予算問題は解決だな」

「さすがです。副会長」


 ――あれから一週間、俺は悩みを抱える野球部員の相談に乗り、問題のある生徒をあぶり出した。例として、サボっているやつはもちろん、協調性がない者、いじめとかという残虐な行為を行なっているやつなどは野球部をクビにした。


これにより、150人ほどいた部員を120人まで削減し、彼らの分の予算を頑張っている部員たちに充てることで、予算問題は終息した。


 ――だが、俺も鬼じゃない。いじめをしたやつは問答無用で一年の停学と自宅謹慎にしたのだが、サボり魔と協調性のないやつらは適性のある部活への転部を生徒会総出でサポートする所存だ。その数は30人中、25人ほどだ。


「ですが、忙しくなりそうなのはここからですね……それにしてもいじめを行なった人以外転部なんて、思い切りましたね」

「ああ。彼らがどんな人間であれ、どんな形であれ、俺が居場所を奪ってしまった。だから、その責任はなんとしても取りたい」

「さすふくですね」

「ん? 今なんと?」

「さすが副会長の略です」

「略すのはやめたまえ……彼らの適正にあった部活の大体は、既に俺の頭の中では決まっている。だから、あとは彼らが首を縦に振るか横に振るかだけで決まるから、野球部予算問題よりは楽ではあるだろうな」

「例えば、どんな人でしょうか?」

「うーむ……例を上げると、二年の兄目大好きクンだな」

「副会長……兄目大輔(あにめだいすけ)君です」

「ああ、すまない。俺としたことが……その兄目クンは、野球選手になれば声優と結婚できるというわけのわからない動機で入部したのだが」

「……本当にわけがわからないですね」


二宮クンは兄目クンの話を聞き、顔が引きつった。


「彼は運動ができず、野球部のキツい練習についていけなかった。それが嫌になり、部活をサボるようになった」

「まぁ運動できない人にとってはハードですよね……」

「だが、聞いた話によれば彼は絵を描くのが上手いらしい。SNSで自分の描いたイラストを掲載しているとも言われている。だから彼にはイラスト部への入部を勧める所存だ」

「たしかにその方が実力を発揮できそうですね……」

「他には一年の鷹虎龍(たかとらりゅう)クンは……」

「副会長、その人いかにも野球をやるために生まれてきたような名前をしておりますが……あと、珍しく名前間違えてませんね」

「ふっ、俺もたまには間違えないさ……で、彼は実力こそはあるが強調性がない。だから、一人でも集中できる水泳部を勧めた」

「たしかに野球はチームありきですが、水泳は自分の身一つだけですもんね」

「ああ。そして、三年生の田嶋一人(たじまかずひと)さんは……」

「副会長。多田野和彦(ただのかずひこ)先輩です」

「すまない。多田野さんは前倒しして引退するそうだ」

「引退してどうするんですか?」

「座教(ざきょう)大学の受験勉強をするそうだ。本来はスポーツ推薦で入学する予定だったそうだが、彼自身はかなり反省して、今からでもがむしゃらに頑張るとのことだ」

「でも、サボってたせいでスポーツ推薦が水の泡っていうのも、それはそれでもったいないですね……」

「仕方ない。自分でまいた種だ。で、どうだろうか。今あげたのはほんの一部だが、既に過半数以上は彼らに合った場所は決めてある。あと数人ってところだ」


ふっ、さすが俺。生徒たちの要望に応えるだけでなく、次の居場所を作ったり守ることもできた。

……ふっ、さすが成司寿人様だ。


「副会長、やっぱりすごいですね……いつも自惚れてばかりいるキザ野郎ってイメージだっただけに、見直しちゃいました!」

「おいおい二宮クン、結構辛辣ではないか」

「ですが、すごいと思ったことは本当なので」

「ふっ、もっと褒めてもいいんだぞ」


俺はまたいつも通り、かっこよく髪をかきあげた。


「ま、俺は転部手続きの後も仕事はあるんだけどな。個人的なやつ、な」

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