ストーカー確保

「よし、瑠夏! ここで曲がるわよ」

「ま、曲がってどうするの?」

「それは、見ていればわかるわよっ!」

「わ、わかった!」


俺は梨音と共に、曲がり角の右の方へ曲がった。


「……よし。ここで待ちましょう」

「……待ってどうするの?」


梨音はまるで身を隠すかのようにしゃがみ、俺もそれに合わせた。


「……いい? いきなり私たちが走り出すと、ストーカーも逃すまいと一緒に走る。で、方向を変えていったら、あっちに曲がったか! と思ったストーカーはその方向に向かって走り出す。ここで隠れているかも気づかずにね」

「つまり?」

「私たちが壁に隠れてここで待っていれば、犯人は必ずこっちへ来る。で、来たところをお縄にするのよ」

「な、なるほど!」


さすが梨音。頭がいい……


「音が聞こえてきたわ。犯人はもうすぐこっちにくる!」


梨音は耳をすましていた。そして、一分も経たないうちに、そいつがやってきた。


「はぁ……はぁ……」

「な、成司先輩!?」

「くっ……俺としたことが、キミたちのワナにまんまとかかってしまったようだ」

「ということは……成司先輩がストーカーってことですか!」


俺の言った通りだ……ストーカーが成司先輩なのはさすがにビビったが、梨音のストーカーという推測は当たっていた。

成司先輩は、梨音を諦めたくないばかりに、彼女のストーカーをしていたのだろうか。だとしたら、副会長が聞いて呆れる……


「な、成司先輩……いくらなんでもストーカーするのはキモいです! ただでさえ普段キラキラしててキモいのに……」


どうやら梨音も成司先輩は自分をストーカーしていると考えているようだ。

そして、ここぞとばかりに先輩への不満をぶつけた。キモいははっきり言い過ぎな気もするが、ストーカーしているのだからキモいことに変わりはない。


「いや、違う! 俺は断じてストーカーなどしていない!」

「……ストーカーって自覚なしでやってるんですよ? 口ではそう言っていますが、概ね私のことが諦めきれずにこんな行為に及んだ。そういう魂胆ですよね?」

「い、いや! 本当に違う! 門矢クンを諦めていないことに変わりはないが!」

「ほら。やっぱり私のことを諦めきれてないじゃないですか。自ら白状しちゃいましたよ」

「い、いや俺は……」


この人、副会長のくせにレスバ弱すぎるだろ……まぁ、学年一位の梨音のレスバが強すぎるとも言えるが。


「じゃあ、なにをしていたんですか? 正直に話してください」

「……に、人間観察だ」


成司先輩はバツが悪そうにそう言った。


「人間観察〜? やっぱりストーカーじゃないですか。私のことを観察して、どうするつもりだったんですか?」

「い、いや! 観察とは言ってもキミにしていたわけじゃない!」

「えっ……じゃあ」


……ま、まさか。そんな。


「流川瑠夏ッ! キミを観察していたのだ!」

「お、俺ですか!?」

「ああ。俺はキミのことがもっと知りたくて、後をつけさせてもらったのだ……」

「え……いや、嘘でしょ? 嘘ですよね!?」


この言い方、まさか成司先輩も俺のこと!?


「なぜキミがこの俺を差し置いて、門矢クンをはじめ、あらゆる女性にモテているのか!」


ほぼ曲者揃いだけどな……


「俺はその秘密が知りたい! 例えば、成績優秀なこの俺が色々な女性からモテるのは必然なことだ。成績優秀で運動もできて顔面優秀、そして家は金持ち! あらゆる要素を兼ね備えているからな!」

「は、はぁ……」


……本当自惚れてるなこいつ。チラッと梨音の顔を見ると、彼女は養豚場の豚を見るような目をしていた。怖……


「だが、キミは正直俺から見たら成績はあまりよくなく、運動も少ししかできない。顔面は平均以外! そんなキミになぜ、門矢クンが惹かれたのか。その秘密を知りたいのだ!」


あー……めんどくせぇ


「だから流川瑠夏ッ! キミの家に連れて行ってくれ! キミの秘密はもしかしたらプライベートに隠されているかもしれない」

「お……」

「お断りします!」


俺が成司先輩の頼みを断る前に、梨音が先に俺の代わり断った。


「くっ……やはり一筋縄ではいかんか。どうしてもダメか?」

「ダメです。私の大事な彼氏に近づこうとするやつは、男でも許しません」

「……なら、どうしたら流川瑠夏の家に入れてくれるのだ?」

「ダメです。一生来ないでください。死んでも来ないでください」


なんて頑固な副会長様だ……


「だが、それはあくまで門矢クンの意見だ。流川瑠夏、キミに聞こう。この成司寿人は、今からキミの家に行って、キミの秘密を知りたいのだが、いいだろうか?」

「お断りします」

「ぐっ……」


俺から断りの言葉を聞いたことで、成司先輩はなにも言えなくなった。


「成司先輩、瑠夏の秘密を知りたいんですよね?」

「あ、ああ……」

「彼女である私から教えてあげましょう。瑠夏にあってあなたにないもの……それは、人間性です。以上です」

「い、いや……それだけではわからないのだが」

「瑠夏、行きましょう」

「ま、待つのだ!」

「……」

「ま、待ってくれ! その人間性とやらを教えてくれ!」


梨音は俺の腕を掴み、颯爽と成司先輩の前から去っていった。

もはや最後の方は彼の言葉に耳を貸さず、聞こえないふりをしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る