帰り道に感じる気配

放課後、俺と梨音は絶賛下校中だ。あの電波女がいつまた暴走するか分からないため、相変わらず日替わりでお互いの家の前まで送りあっている。今日は俺の家だ。


「瑠夏と毎日一緒に帰れるなんて、本当に幸せね〜」

「……」

「瑠夏、どうしたのよ……元気ないわね。まさか、私と一緒に帰るの嫌とか?」

「ああっ、いや……そんなんじゃないって!」

「じゃあ、なに? 他の女の子のこと考えてた?」

「いや、まあ他の女といえばそうか……」


半分冗談の言葉を最後まで言い切る前に、梨音から首を思いきり掴まれた。


「なに? 他の女の子って誰? 紫苑? 藤井さん? それとも……」


梨音は怒気の混じった声色をしながら、ジワジワ俺の首を絞めてきた。


「がっ……ぐっ……ちが」

「いい? 世の中の女は怖いのよ? 藤井さんのせいで入院したり、紫苑に纏わりつかれたり……なにより、瑠夏の心が離れた瞬間の私が怖いわよ? あなたが他の女に尻尾を振った途端、私なにするか分からないわよ……?」

「ぐっ……ぎっ……」


梨音は濁った目で俺を見つめながら、更に首を絞め続けた。


「ちがう……本当にちがう。話すから、離して……」

「……場合によってはもう一度絞めるから」

「はーっ……はーっ……」


梨音の慈悲により、俺は解放された。そして、今まで吸えなかった空気を取り戻すかのごとく、俺は小刻みに深呼吸をした。


「で、瑠夏はなにを考えてたの?」

「はーっ……えっと、なんか誰かに見られてるなって思って」

「誰かに……?」

「もしかして、またあいつにストーカーされてんのかなって……」

「ストーカーねぇ……でも、少なくとも藤井さんじゃないと思うわ」

「なんでそう言い切れるの?」

「私、藤井さんの手足に手錠かけたから! それで、教室に放置してやった!」

「……いや、そっちのほうが犯罪なんじゃ」

「大丈夫よ。私が家に着いたら、アプリでロック解除するから!」

「……もうそんな手は使わないでな」


亜姫じゃないとすると誰だろうか……


「し、紫苑とか!?」

「紫苑は大丈夫よ」

「え?」

「私に協力してくれたもの。それにあの子って変にプライド高いから、藤井さんと同じ言動はしたくないって思ってるはずだから」

「あ、ああ……なんか、俺より紫苑に詳しくなってないか? やっぱり二人は仲……ぶっ!?」


梨音はおもむろに力強く俺の頬を掴んできた。


「……これ以上は言わせないわよ。言っておくけど、紫苑と仲良くなるつもりはないから」

「しゅみません……」

「……じゃあ、一体誰だ? もしかして俺のストーカーじゃなくて、梨音のストーカーとか!?」

「……その線もありえるかもね。とりあえず、誰かは分からないから、相手が尻尾を見せた途端捕らえる作戦でいきましょう。成功率は低いけど」

「わかった」

「でも、成功率を高くする方法はあるわっ!」

「ちょっ……梨音!?」


そして、梨音は急に走り出した。

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