ストーカー再び!

「瑠夏、大丈夫? なんか、目にクマあるけど……」

「いや……昨日私が安心するまで電話して! って言ったの誰だよ」

「あっ……」

「梨音、寝落ちすら許してくれなかったし……」

「ごめんなさい……でもだって、瑠夏の声聞かないと不安で不安で」

「そんなの、毎日学校で聞けるだろ?」

「そ、そうね……もぅ、瑠夏ズルいわよ」

「え? なにが?」

「ううん。なんでもないわ」


昨日は夜から朝方にかけて梨音の電話に付き合い続けていた。なので、寝不足だ。二時間くらいしか寝てない。


……でもなぜだろう。ボーッとはするのに、逆にどこか冴えているような気分にもなった。


「!?」


と、そのとき何処からか気配がした。誰かに見られているような……これが冴えてる気分の弊害なのか?


「る、瑠夏!? いきなりどうしたのよ、キョロキョロして……」

「い、いや……誰かに見られている気がして」

「もしかして……また藤井さん!? あの電波女、本当に懲りないわね!」


血走った目をした梨音は、まるで本人に呼びかけるかのように大声で嘆いた。


「失礼な! もうストーカー行為なんてしないよ!」


その大声は当然本人の耳にも入り、亜姫が颯爽とやってきた。


「信用できないわね。あなたは前科があるもの」


しかし、梨音は冷め切った目で一蹴した。


「だ、だから夜寿様の弟様からの説教で悔い改めたって!」


成司先輩の言葉自体は胸に響いているようだった。

それならよかった……先輩が身体を張った甲斐があるよ。


「あっ、そういえばルカ」

「は、はい……」


また彼女から妄言を聞かされるのだろうか……そう思い、俺は身構えたのだが


「これ、あげる」


亜姫は俺の机に缶の飲み物を置いた。その缶には、おどろおどろしいよく分からないイラストが描かれていた。イラストに使われている色は紫とか青とか緑とか、全体的に寒色よりの色なだけになんだか危ない匂いがした。


「あの、亜姫……これなに? 毒物?」

「ちょっと! 人の親切になんてこと言うの!」

「親切って……あなた今まで散々瑠夏に迷惑かけておいてなに言ってるのよ」


梨音、言ってくれてありがとう


「あのねルカ。これは毒物なんかじゃないよ。公式で発売されている、魔剤ことエナジードリンクだよ」

「あー……よくSNSで見るやつだ。思い出した」

「ルカ、眠いんでしょ? これ飲んでスッキリしちゃいなよ。ちなみにアキはストローで飲んでるよ。おすすめはしないけど」

「いや、聞いてないって……でも、ありがとう。助かる」

「いえいえ。ルカのためならアキ、なんでもしちゃうから」


いや、それはそれで重いよ……


「ちょっと待ちなさい!」


と、ここで梨音が何かに気づいたのように口を挟んできた。


「ねぇ、なんで瑠夏が寝不足だって知ってるのよ。その話、そんなに大声でしてなかったわよ」

「あっ……」


そういえばそうだ……俺は考えれば考えるほど、青ざめてきた。やっぱり


「やっぱり藤井さんがストーカーの犯人じゃない!」

「いや、違うって! アキは二度としないって決めたの!」

「じゃあなんで瑠夏が眠いことを知ってるのよ!?」

「それはね……アンタとルカの会話を聞いていたからだよ。たまたま! 偶然! 私の耳に入ったの!」

「……瑠夏、カバンの中見るわね」

「えっ……」


そして、梨音は俺のカバンの中を漁り、ボールペンを取り出した。


「ねぇ、瑠夏って普段ボールペンは筆箱の中に入れるわよね」

「う、うん……カバンの中で無くすと嫌だし」

「だって。ねぇ、藤井さん?」


梨音はボールペンを持ったまま、亜姫を睨みつけた。


「……っ」

「あ、亜姫……!?」

「まさかバレるなんて……直接身体を使うストーカーは悪質って気づいたから、道具を使う方法にシフトしようと思ったのに!」


そう言いながら亜姫は手足を床につけ、手で思いきり床を叩いた。


「クソ! アキの計画が!」

「全く……やっぱり犯人はあなたじゃない」

「で、でもルカのことは見つめないようにはしたよ!?」

「あのねぇ……こういうカメラを使うのも犯罪なのよ? わかったから瑠夏に近づかないで!」

「う……うわああああああああああああああああ!」


梨音から糾弾され、亜姫は喚きながら教室から逃げ出した。


「ちょっと亜姫! もうすぐホームルーム始まるって」


俺の呼びかけは、全く聞こえなかった。


「全く……やっぱり懲りてないじゃない。あの子は」


梨音ははぁ、とため息ついた。


「……そういえばさ、梨音」

「ん?」

「ボールペンで思い出したんだけど、俺の筆箱の中に知らんボールペンが入っていたんだよね」


俺はカバンから筆箱を取り出し、その中からボールペンを取り出し、それを梨音に見せた。


「これ、亜姫がカバンにぶち込んだやつと全く同じデザインをしてるんだよねー俺、買った覚えとかもないし……」

「し、紫苑あたりが仕掛けたんじゃないかしら……?」


俺から顔を逸らしながら梨音はそう言ったが、犯人の目星はついている。梨音が言ってる人とは別の人だ。そう……


「梨音」

「……」

「言うことない?」

「……ごめんなさい」


どうやら俺の感じた気配はこの二つだったようだ。彼女からもストーカー、変な女からもストーカー……参ったぜ。幼馴染からストーカーされないだけでもマシかな。


だが、このときの俺は知らなかった。まさか第三のものが俺をストーカーしていたなんて……

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