成司寿人は自惚れてばかり!

あいつはなぜモテる……?

 ――俺の名は成司寿人。この肝杉学園の副会長を務める男だ。


俺は小学校ではとても足が早く、体育の授業や運動会で行われた徒競走では毎回一位を獲得し、モテていた。そして中学では兄者の影響でハマったヤンキー漫画の真似をしたらモテた。

そして高校では不良の真似事なんぞ辞めて真面目に生きようと思い、勉強しまくり今の地位を手に入れた。そしたらモテた。それは今に至る。


――つまり、俺は人生でモテないことがなかった。そう言っても過言ではない。


しかし、そんなモテる俺にも悩みがある。それは……



後輩の流川瑠夏が異常にモテてることだ!


俺と彼の因縁が始まったのは、五月のときだ……



「す、すみません……体育館裏に呼び出して、なんの用ですか?」

「すまない。門矢梨音クン。今日はこの、肝杉高校副会長である俺から、大事な話があるのだ」

「……」

(ああ…… 藍色の美しく長い髪……ビー玉みたいに透き通った目! 艶やかな赤渕の眼鏡……そして、それを通じて見える不安そうな目! キミは本当に美しい! 門矢梨音クン!)


二年生になった俺は、一年生の中でも異彩を放っている女性、門矢梨音に一目惚れをしたのだ。……入学式のときに、な!


だが、入学してきた当日に告白をするのは、さすがに非常識だ。

だから、学校生活に馴染んできた今この五月という時期に告白するのが合点がいく。そう思い、彼女を体育館裏に呼び出したのだ!


「門矢梨音……この俺、成司寿人はキミのことが好きだ! 美しいキミとぜひお付き合いしたい!」


俺は顔をかきあげながら、キラっとした笑顔を彼女に向けて、告白をした。


しかし……


「ごめんなさい」


バッサリと断られた……しかも流し目で


「な……なぜだ!? この成司寿人が告白をしているのだぞ!?」


今までの人生、モテてばかりの俺にとっては、この答えは衝撃的で、思わずこんなことを聞いてしまったのである。


「私、好きな人いるんですよねー……」

「は……!? そ、そうなのか!?」

「ええ。それも今成司先輩から告白される前から好きなので……」


な、なんだと……!? そんな男がいるというのか!? くっ、俺と彼女がもっと早くから出会っていたら!


……いや、待てよ? 俺から告白される前ということは、ワンチャン幼稚園児時代の同級生かもしれない。よくある「将来◯◯君と結婚する〜」とかという叶えられもしない口約束のたぐいかもしれない! そう信じた俺は、もう一度彼女に告白をした。だが、さっきとは違うやり方だ。


「コホン。門矢梨音クン。俺はキミの将来を保証することは約束できる」

「……は? どう言う意味ですか?」


彼女は怪訝そうな目で俺を見つめてきた。だが、そんな表情も俺のプレゼンで変わることだろう。

もっとも、その目もかわいいけどな。


「門矢クン。実はあまりこういうことは言いたくないのだが……俺の祖父は会社を経営しているのだ」

「……それがなんですか?」

「ナルシホールディングスという企業なのだが、最近あるデパートの新館に映画館ができるのだよ……それが、祖父の経営している会社が大元なのだ!」

「……」

「つまり、俺の将来は約束されたも同然……キミが社会人になった頃には、俺も立派な社長さ!」


これならどうだ!? 金の持ってる男性は将来的にモテるということが、あるデータで証明されているからな!

俺は次男だが、兄者は別のやり方で金を稼ぐと言い、ホストの道へ進んだ以上、祖父の跡を引き継ぐのは父、そしてさらにそれを引き継ぐのはこの俺であることはもう決まっているようなものなのだ!


「あの……ごめんなさい。そういうことではないんです! 私、お金とかそんなんじゃなくて、本当に好きな人がいるんです! だから、あなたの気持ちには応えられません! ごめんなさい!」

「……!?」


今度は割と強めな口調で断られ、俺はかなりショックを受けた。

同時に、今までモテてばかりだった俺のプライドも傷つけられた。


「く、くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」


俺は悔しさのあまり、地面に手足をつけ、うなだれた。


これが、俺と流川瑠夏の因縁の始まりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る