流川瑠夏は静かに暮らしたい

梨音と成司先輩のおかげで、俺にも平穏が戻った……


と思ったら、そんなことはなかった。


「ルカ……ルカ……」

「……」


亜姫が前以上に鬱陶しく付き纏ってくるようになったのである。


「お前さ……成司先輩からの説教をちゃんと聞かなかったのか?」

「うん。聞いてたよ」

「……じゃあなんで?」

「今までアキせいでルカや夜寿様にに迷惑かけていた……だから、アキは償いがしたいの!」

「いや……そんなことしなくていいから」

「お願い! アキにできることならなんでも言って! ルカのためならなんでもするから! ……そうすれば、ルカもアキのことお嫁さんって認めてくれる!」


おいコラ。本音が思いきり漏れてるぞ。


「はぁ……じゃあ、俺と距離を取ってくれ。それが俺のためになることだな」

「やだ」

「は?」

「それじゃあアキ、ルカと離れ離れになるじゃない!」


こいつやっぱり成司先輩の言葉が響いてないな……


「こら! 藤井さん!」


と、ここで梨音がやってきて、亜姫の首根っこを掴み、持ち上げた。


「な、なによ……」

「私の瑠夏に近づかないでって言ってるでしょ!」

「……ごめんなさい」

「あら……」


意外なことに亜姫は素直に梨音に謝罪をした。梨音も梨音でポカンとしていた。


「亜姫。わかっちゃった。既に今世のルカに彼女がいるから、仕方ないよね……」


おっ、諦めてくれるのか……!?


「亜姫はね! 総理大臣になる!」

「え……?」

「総理大臣になって、国の法律を変える! 一夫多妻制にして、ルカのお嫁さんになる! そうすれば、ルカも納得するでしょ!?」


な、なにを言ってるんだこいつは……やっぱり電波女は電波女か。


「一夫多妻制……素晴らしい案じゃないか!」

「成司先輩!? ここ一年のクラスですよ!?」

「一夫多妻制になれば、俺に嫁ぐ女が増えるということだ! いい夢を持ってくれたな! 藤井クン!」


と、成司先輩は亜姫の肩を叩きながら、彼女を褒め称えた。昨日の威勢を放った男は、どうやら成司先輩ではない、別の男だったようだ。


「ちょっと! 一夫多妻制なんて許さないよ!」

「し、紫苑!」


ここで、紫苑も乱入してきた。


「一夫多妻制にしたら必然的に紫苑がるーちゃんと過ごす時間が減るでしょ!? だから嫌!」


うーん……俺は梨音と多くの時間を過ごしたいんだけどな。


「な、なんだね平野クン! 俺と藤井クンの計画の邪魔をしないでくれたまえ!」

「アンタはアキに便乗しただけでしょ!」

「ぐはっ!」


成司先輩、推しの弟だからってことで亜姫からの扱いがよくなると思ったけど……逆に雑になってる気がする。一応処遇を不問にした恩人なのに……


「お、おーい……みんな。いいか?」


と、ここで一人の男が言い争ってる俺たちに声をかけてきた。


「今回の俺の出番、少なくない……?」


充希、そういうことは言っちゃダメだよ……


「と、とにかく! アキ、ルカのこと諦めたわけじゃないから! 前世だけじゃなくて、今世でも、アキのものにしてみせる!」


と、亜姫は俺に向かって指を指しながらそう言ってきた。


……やっぱり成司先輩の話聞いてないじゃないか!


前世では付き合ってないって言ってるだろー!

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