副会長、キレた!!

「ふ、副会長……!? なんで!?」

「ふっ……俺も人がいいもんだな。愛する人と結ばれないことはわかっているのに、彼女からの頼みを聞いてしまうなんて」

「た、頼み……!? どういうこと!?」

「実はな……」

「ちょっと成司先輩!」


彼が梨音のことを口に出したらまずい……そう思い、止めようとしたのだが


「いや。なんでもないさ」


自ら思いとどまってくれた。


「それよりも藤井クン……貴様が兄者にした仕打ち、許すわけにはいかないな」

「さ、さっきから何!? 兄者兄者って!? アキ、あんたのお兄ちゃんのことなんて知らない!」

「まだそんなことをほざいているのか……! 証拠ならここにあるんだよ!」

「……!?」


成司先輩が亜姫に見せた画像は、一瞬俺の目にも映った。

その写真は、最初に俺が亜姫と会ったとき、変なおっさんから見せられたものと全く同じだったのである。一体なぜその写真を持っているのだろうか……


「ふ、副会長……!? 夜寿様の弟さんだったの!?」

「さっきからそう言っているではないか。全く。人の話をしっかりと聞け」

「……」

「いいか? 正直キミがこのヘボ男を好きになるのは構わない。むしろ、ストーカーしまくって彼の心をズタズタにしてほしいくらいだ。そうすれば、俺も自動的に門矢クンと結ばれてWin-Winだからな」


こいつは……


「だがな! 俺の兄者を愛しておいて、ストーカーして、引きこもりになるくらいにまで追い詰めておいて、あっさりとこのアホ男に乗り換え、果てにはきれいさっぱり都合よく兄者の記憶を消去する行為が気に入らないのだ!」


成司先輩……ただのキザナルシスト男だと思ってたけど、めっちゃいいこと言うじゃん。合間に俺のこと罵ってるけど。


「俺はこの世のあらゆる女性を愛する人間だ! だが……そうだな。あくまで例え話だ! キミが俺に惚れて、流川瑠夏ッからあっさり乗り換えて、流川瑠夏ッの記憶が都合よく消えたとしても、俺は全く嬉しくない。まるで代理にされたような気分だ」

「……」


す、すごい……普段全く人の話を聞かないはずの亜姫が、うんうんとうなずいてる!?


「とにかく、自分の思いを押しつける恋愛はやめるのだ! そして兄に近づくな!」


と言いながら、成司先輩はクリップボードついている、一枚の紙を亜姫に渡した。


「流川瑠夏ッに夢中のキミはどのみち兄者に近づかないことはわかっている。だが、全くないという保証はない。だから、この契約書にサインをしろ」

「は、はい……」

「しっかりと目を通して読め」

「……」


亜姫は真剣な目で契約書を読んでいた。こんな顔、初めて見るな……


そして、それを読み終えた彼女は……


「わかりました……どのみちもう夜寿様には興味はないですが、今後あの人には近づきません。ライブにも行きません」

「そうか。まぁ、どのみち兄者はホスト一座を脱退したのだがな」

「そう……」

「では、サインを書け」

「はい……」


そして、亜姫は黙々とサインを書いていた。しかし、その途中で……


「あれ……アキ、なんで泣いてるの?」


彼女は涙を流しはじめた。


「夜寿様……あなたと一緒に写真撮ったり、デートしたり……キスもしたり……色々あったね。アキ、ついさっきまで都合よく忘れていたけど、どれもかけがえのない思い出だったな……でも、アキ自身がそれを壊しちゃっていたんだね。そしてまた、同じことを繰り返そうとしちゃったんだね……夜寿様……夜寿様! うっ……うっ……」


そう。彼女は夜寿さんとの思い出を、おそらくまるで走馬灯のように思い出していたのだ。


「……印鑑は指でいい」

「……は、い」


と、言いながら成司先輩は懐から朱肉を取り出し、亜姫に渡した。


「……」


亜姫は唇を噛みしめながら、指を朱肉につけ、それを契約書に押し付けた。


「はい……サインしました」

「よろしい」


亜姫は契約書を成司先輩に返した。


「……」


そして、重く湿った空気が俺たちにのしかかった……

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