副会長の兄

 ――翌日の朝


「失礼します! 成司先輩に用があってきました!」


 私は生徒会室へやってきた。昨日黒崎さんから言われたことを使い、藤井さんの処遇を変えてもらおう。そういう魂胆である。ちなみに紫苑は寝坊で来ていない。


「はい。成司先輩はいます。時間もありますので、どうぞお入りください」

「ありがとうございます」


 私は、早歩きで成司先輩の座っている席へと向かった。


「おお。誰かと思えば門矢クンじゃないか。もしかして、俺に惚れなおしたのかい?」

「いえ。そうではありません」


 相変わらず自惚れているわね……本当に嫌になる!


「では、なんの用だい?」

「成司先輩、この前藤井さんの処遇は不問とするとか言いましたが、取り消した方がいいですよ」

「い、今更どうしてだい? なにか余罪でもあったのかい?」

「はい。その通りです」


 私は話を続けた。


「成司先輩、あなたには兄がいますよね?」

「あ、ああ……寿一兄さんのことか。俺の兄は最近引きこもりになっているのだが、それがどうかしたのかね?」


 よし。聞いてもいないことをスラスラと……これはチャンス!


「いいですか? 落ち着いて聞いてください……あなたの兄を引きこもりにした原因は、藤井さんです」

「なっ……なんだと!?」


成司先輩は今までに見たことのない驚愕の表情をしていた。いつも気取っている顔をしていただけに新鮮だ。


「ふっ、ふんっ……だが、証拠はあるのかね? 俺の兄が引きこもりになった原因は、確かに変な女ファンに付き纏われたせいではあるが、それが藤井クンとは言い切れないだろう」


と、思いきやいつもの表情に戻った。と言っても、平静を装っているだけなのか目がかなりピクついている。


「証拠はここにあります」


と言いながら、私は盗聴器をテーブルに置いた。あのとき、そのまま黒崎さんとの会話を録音していたのである。

そして、私は再生ボタンを押した。


『その追い詰めたファンってどんな感じだったんですか?』

『うーん……俺にはそんなに話しかけてこなかったから第三者から見た視点とすると、自分のことアキって行ってて、地雷系の格好をしていた感じだったね。まぁ、俺らのファンの大半は地雷系の格好しているけど。髪の特徴は黒髪ツインテールだけど、それは他のファンもしていたね。うん』

「……」


成司先輩は録音された会話を聞いて唖然としていた。


「ま……まさか、兄の仇があの転校生クンだったなんて!」


真実を目の当たりにした彼の声は震えていた。まぁ、死んではいないらしいけど……でも、自分の家族をあそこまで追い詰めたものね。そりゃ、怒りに震えるわよ。


「あの女! 許せない! 俺の兄という優良物件に傷をつけておいて、よりにもよって流川瑠夏に乗り換えるなんて! 許してはおけない!」


そ、そっち!? で、でも怒ってることに変わりはないから、もしかして……


「で、では成司先輩! 藤井さんの処遇に関しましては……」

「いや、一度不問にした以上、今更変えるわけにはいかない!」

「え……じゃ、じゃあどうするんですか!? あなたの兄を追い詰めた女が、のうのうとこの肝高で過ごしてるんですよ!? 野放しにしていいはずありません!」


この期に及んでもなお、自分の考えを改めない成司先輩に苛立ち、机を叩きつけ抗議した。


「いや、処遇自体こそは変えない。だが、俺も腰を上げないわけじゃない」

「……というと?」

「あの女を、もう一度俺の兄者に惚れさせる!」


まさかの当初私が考えた作戦を実行するようである。


「よし! そんなわけで早速兄者を部屋から引きずり出して……!」

「いや! 待ってください!」

「……ん? どうかしたのかね?」

「いくらなんでもお兄さんが会いたくない相手に会わせるのは酷じゃないですか?」


最初同じことを考えていた私がこんなことを言う資格はないが、これをもしも実行してしまったら、最悪の事態もあり得る。だから私は一旦待ったをかけた。


「……では、どうしたらいいんだね? キミも彼女の流川瑠夏から引き離したいのだろ?」

「そのことなんですが……私に考えがありまして」

「それは一体なんだい?」

「それはですね……」

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