キャラ作りは大変

「あの……黒崎さん、一体どうしたのですか?」

「え? なにが?」

「いえ、さっきまでのあれ……」

「あー、あれ? あれはキャラ作りだよ。マネージャーさんから、お前はオラオラキャラが似合うからそうしろ! って言われてさー」


 私は黒崎さんの変わりように困惑し、目を丸くした。

 ……こんなに爽やかな笑顔をした人のよさそうな人が、そんな正反対のキャラ作りをさせられてたなんて……まぁ、瑠夏ほどじゃないけどねっ!

 そして、一瞬チラッと紫苑の方に目を向けたが、彼女も目を丸くさせていた。どうやら……いや、誰でもこれを見たら私と同じ気持ちになるわよね。


「あっ、では黒崎が来ましたので、私はおいとまいたします」

「わかった。この子たちを呼んでくれてありがとうね~」


 黒崎さんからそうお礼を言われた後、スタッフさんは、ソファから立ち上がり、一礼し、去っていった。


「あ、あの……黒崎さん。気になることがいっぱいあるんですけど、まずは紫苑たちもホスト一座のファンなのに、オラオラキャラ装わなくていいんですか?」

「し、紫苑……」


 紫苑はぶっちゃけた質問を黒崎さんに問いかけた。


「この制服見てピンと来たんだけど、キミたち、肝杉高校に通っているでしょ?」

「質問に答えてないけど……はい。そうです。二人共です」


 質問を質問で返された紫苑は少し毒づきながらも、ちゃんと答えた。


「この制服を見て、キミたちは俺たちホスト一座のファンではないことがわかってね」

「……どういうことでしょうか?」

「寿か……夜寿の行方を聞くために、一番仲良しである青山に行方を聞こうとしたんだよね?」


 な、なんでそこまでバレているのよ……!? 会話、聞かれていたの!?


「つまりキミたちは、友達のためにここまで来て調査をしたということだな」


 と、友達じゃなくて、恋人よ……って、そこまでバレているの!? なんでわかったのよ!?


「実は、夜寿と本当に仲がいいのは俺でな。高校時代からの同級生なんだよ」

「じゃあ……青赤コンビとかっていうのは?」

「ホスト一座のことそんなに知らないと思ったけど……まさかそのコンビ名まで知っているなんてね」

「……」


 ホスト一座を知らない。という言葉に少しカチンときそうになったが、黙って話を聞き続けることにした。


「青山と仲がいいのも、マネージャーから言われたキャラ作りなんだよ。本当はあの二人、楽屋で一言も話さないくらい関わりなくてさ」


 仲のよくない人と組まされるなんて……キャラ作りは大変ね。


「それより、なんで紫苑たちを呼んだんですか? それと、制服を見て通っている高校が分かったのも、黒崎さんと赤澤さんも肝杉高校に通っていたとか?」

「いや、俺たちは矢場杉高校だね。肝杉に通っているのは夜寿の弟だ」


 ……こんな穏やかそうな人が矢場高に通っているなんて。もしかして履歴書に書いてある高校名を見て、オラオラキャラにしろって言われたのかしら?


「それで、夜寿の弟と友達である君たちが、彼から頼まれた、もしくは彼のためにホスト一座へ来て、夜寿を追い詰めたファンを探すために」


 ……話が見えてこないわね。私たちは瑠夏のストーカーに赤澤さんを会わせるために来たのが目的なのに。


「あの、黒崎さん……その弟の名前ってなんでしたっけ? 友達ではあるんですけど、生憎苗字でしか呼んでおらず」

「そうなのか。弟の名前は寿人だよ。で、夜寿の本当の名前は寿一だ」


 寿人……? はっ!


「「成司先輩だ!」」


 私たちはお互い顔を合わせて指をさし、その名前を言った。


 これを利用すれば……あの女をどうにかできる!

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