まさかの展開
「……」
あれから俺は、紫苑の料理を食べ終わり、歯を磨き、眠りについた。
当初俺はソファで寝ようとしたが、(なぜか)布団が二人分あると言われ、俺も紫苑も布団で寝ている。
(基本インドアで、この環境でうまく生活できるかは分からないけど……たまにはこういうのもいいな)
と、思いながら寝ていたが……その睡眠の時間は突然終わりを迎えた。
「るーちゃん……るーちゃん!」
「……ん? なんだよ紫苑? どうした?」
「侵入者! 侵入者が来たよ!」
「……え?」
侵入者……? もしかして熊とか? だとしたら危ない……どうやって対策をするか?
「紫苑、ブルーシートとかあるか?」
「るーちゃん違うよ」
「違う?」
「侵入者は熊じゃなくて人間だよ! しかも女の子! ああ! るーちゃんに悪い虫がついちゃうよ!」
「……」
侵入者は女の子……その言葉を聞いて嫌な予感がした俺は、大慌てでバルコニーへ行き、そこから周りの様子を見た。
「……!?」
まだ少しボヤけている俺の目に映ったのは、バールを持った女の子だった。そして、聞こえこそはしないが、口を動かしているため、なにかを唱えている(もしくは、ブツブツと呟いている)ようにも見えた。
「る、るーちゃん……姿を見せると危ないよ? 悪い虫に寄生されるよ」
「……なんでここがわかったんだ」
「え?」
「紫苑、あいつがさっき俺が言ってた例のストーカーだよ……」
「あ、あれが例の……?」
「うん……バール持ってるでしょ?」
「遠目からだとよくわからないけど、あの持っているなにかでるーちゃんの頭をかち割ろうとしたんだね……恐ろしいよ」
「うん……」
「とにかく、早く中に入ろう! 見つかったら終わりだよ!」
正直、身を潜めてもバレるまでは時間の問題なのでは? と思いつつも、時間稼ぎできたほうがマシだと判断した。だから、俺は紫苑に言われた通り、さっさとムラサキ号の中に入った。
――その直後
「ルカァァァァァァァァァァァ! いるんでしょ! さっさと出てきて!」
彼女、亜姫の狂気じみたキンキンとした高い声が山中に響いた。
「ここの変な家の中にいるのはわかってるんだよー!」
いや……どうしてバレたんだ。ここは紫苑にしか場所を言ってない! だから、充希がゲロった可能性も限りなく低い。
それと、なんなんだこいつ……俺たちの思い出の場所を変な家呼ばわりしやがって!
「ルカがいつまで経っても帰ってこないから、おかしいと思ったんだよ! アキ、ツンデレは好きだけどさ! 妻のいる家に戻らないのは、さすがにツンがすぎるんじゃないのー! デレも見せてよー!」
「ほ、本当に電波だね……言ってることもわけがわからないよ」
「で、でしょ……? 本当に怖いよ……」
あの紫苑も、亜姫の言葉を聞いてドン引きしていた。おそらく俺から説明されたときは、そこまでレベルの高い電波とは予想ができなかったのだろう。
「るーちゃん、紫苑覚悟を決めたよ」
「え……? 覚悟って……!?」
「あいつがるーちゃんと紫苑を二人きりにしたことには感謝しているよ……だから、場合によっては見逃すことも考えたんだ」
いや、見逃すなって……
「でも、あんな悪質なストーカー行為……見過ごすわけにはいかないよ」
「ど、どうするつもりなんだよ……」
と、俺は聞きこそはしたが、紫苑のやろうとしていることは薄々わかってはいた。
だから、止めなきゃと思った。
「紫苑が直接会って、あいつを説得する!」
「ダメだ! いくらなんでも危険がすぎる! それこそお前がバールで頭をかち割られるかもしれないんだぞ!」
「るーちゃん……紫苑、たくさんるーちゃんに迷惑かけたでしょ? だから、さいごまでるーちゃんのためにできることをしたいんだ」
「し、紫苑! 待っ……」
「るーちゃんはここで待ってて。なにがあってもここから出ないで……」
こっちを向いた紫苑は微笑みながら、ムラサキ号から出ようとしたが……
「い、嫌だ……」
「ちょっとるーちゃん!?」
俺は紫苑の足を掴み、無理やり止めた。
「るーちゃん! 紫苑がいかないと、るーちゃん死んじゃうかもしれないんだよ!」
「逆に俺がいないと、紫苑が死ぬかもしれないんだぞ!」
「……」
「梨音に謝る前に死ぬなんて許さない……なにより、大事な幼馴染を失いたくない。だから!」
「だから……なに?」
「一緒にあいつを説得しにいくぞ!」
「で、でもるーちゃん……そんなことしたら!」
「わかってる。真っ先に俺が狙われることくらい。でも、一緒に行ったほうが多少勇気がつくかもしれないし、二人がかりで説得すれば説得力も上がるかもしれないだろ?」
俺は思いつく限りの言葉を使い、必死に言い聞かせた。
「はぁ……わかったよ。るーちゃん」
「紫苑……」
「二人であいつを説得しにいこう」
「おう!」
「なるべく刺激するような言葉は使わないでね。それこそ、この前紫苑に言った言葉みたいな感じのは特にNGだから」
「うっ……わかってるって」
軽く古傷を抉られた俺と紫苑は、ムラサキ号から出た。
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