幼馴染と過ごす秘密基地生活
「それにしてもるーちゃん、なんで急にここに来たの? 門矢さんと付き合ってる以上、なにか特別な事情がない限り来るとは思えないんだよね……」
紫苑は冷静にそう言ってきた。あのときの狂った彼女だったら、門矢さんと別れてくれたのー?とか言っただろう。多分……
「紫苑、実はさ……」
俺は正直に全てを話した。あのデートの後、変な女・藤井亜姫に目をつけられ、ストーカーされ、バールで殴られそうになっていること。学校を特定されたこと。とうとう家にまでやってきたことで、帰るに帰れなかったこと。そして、その女がとんでもない電波地雷女であること。全てだ。
「なるほど。たしかにここはるーちゃんと紫苑しか分からない場所だから、特定のしようがないよね」
「うん……ここならしばらく身を潜められるかなって」
「そうだね……じゃあさ、しばらく紫苑とここにいよ!」
「え……?」
「えっ? ってなんだよ。バールで頭殴られるよりはマシでしょ?」
「でも制服とかどうするの……?」
「心配ご無用! 入って入って!」
「う、うん……」
俺は紫苑に案内され、木の幹で作られたハシゴを登り、ムラサキ号に入った。
「んんんん?」
俺はムラサキ号の中を見て驚いた。昔はなにもない、ありのまま自然なログハウスだったのだが、今はソファや本棚などの家具が置いてある。さらに、キッチン……はないが、ガスコンロはあるし、フライパンや鍋などの調理器具もあった。
「もはやただの一軒家じゃん……」
「そう! るーちゃんとの夫婦生活を想像したら、いつの間にか揃っちゃってて……」
「へ、へー……」
その発想がなんだか怖い……
「で、これが洗濯機だよ! 手動で少し面倒だけど……」
と、言いながら紫苑は小さい洗濯機(?)を指した。
「最近はこういったものもあるんだな……」
「うん。最近はソロキャンプもブームだしね!」
「そ、そうだな……」
最低限の生活や食事しかできない覚悟をしていたけど、こんなに進化してるなら大丈夫そうだな!
紫苑の行動力に恐怖こそ感じてはいたが、それと以上に感謝と尊敬もした。
「じゃあ、さっそく料理とか作っちゃおっか。もう遅くなったし」
「えっ……うん。でもここ電気使えないし、冷蔵庫は……」
「ここにくる前、スーパーで買ったよ!」
紫苑はドヤ顔でそう言いながら、食材の入ったビニール袋を俺に見せてきた。
「お、おお……」
ここまでなると、今日俺が来ることを予測していたんじゃ……と疑いたくなった。
「じゃあ、私が料理を作っちゃうよ! 肉じゃが作るよ!」
「おお! マジで!?」
なんと! 紫苑の肉じゃがを久しぶりに食えるなんて! あれめっちゃ好きなんだよな〜
そう。紫苑の料理はマジで美味いのだ。
(ふふふ……久しぶりに紫苑の料理を食べさせて、またるーちゃんの胃袋を掴んでやるんだから!)
「紫苑、なにか俺に手伝えることあるか?」
「大丈夫! るーちゃんはゆっくりしてて。ここに来るまで大変だったでしょ?」
「えっ? まぁ、大変だったけど別に……」
「ほかにも、変な女に付き纏われてたでしょ? るーちゃんの身体だけじゃなくて、心も疲れてるよ? 絶対に。だから休んで」
「わ、わかった。じゃあ、俺はゆっくりします……」
こうして、俺は紫苑のお言葉に甘え、ソファーに座った。
「はぁ……本当に疲れたな」
そして、おもいきり脚を伸ばした。
「あいつ、いつになったら警察に捕まるんだろうな……捕まるか、完全に諦めてさえくれたら家に帰ってぬくぬくできるのに」
そんな風に悩んでいるうちに……俺は眠りについた。
▲
「るーちゃん? るーちゃん!」
「……」
「るーちゃんってば!」
「ほら、起きてって! ご飯できたよ!」
「んっ……あ、ああ……俺、寝てた!?」
「うん。ガッツリ寝てたよ」
「マ、マジか……」
「……相当疲れてたんだね。大丈夫?」
「だ、大丈夫……起こしてくれてありがとうね」
「そりゃ起こすよ〜。紫苑のご飯食べてほしいからね。ほら、食べるよ」
「う、うん……」
俺はおぼろげな意識のまま、紫苑に腕を引っ張られ、テーブル(というか切り株)まで連れてこられた。そこには紫苑の作った肉じゃがと、米が乗っていた。
「米も炊いたのか?」
「うん。飯盒(はんごう)を使ってね」
「なにそれ?」
「説明するより直接見たほうがわかりやすいと思うから、後で見せてあげる。今はとりあえず、食べましょ」
「そうだね」
椅子などはなかったため、正座をした。
「じゃあ、いただきます!」
「はい。いただきます」
こうして手を合わせ、俺たちはご飯を食べ始めた。
「うまー!! やっぱり紫苑の肉じゃがはうまいな!」
「ふふっ、ありがとう」
このほくほくしたジャガイモとやわらかいお肉、シャキシャキとした野菜。それらが奏でるハーモニー……うますぎる!
「あらあらるーちゃん……そんなにがっついちゃって」
「米も美味しいな……かたすぎずやわらかすぎず。ちょうどいいバランスだ」
「そうなんだよ。色々調整するの大変だったんだから……」
「それはお疲れ様。そして、ありがとう。こんなに美味しいご飯を作ってくれて」
俺は紫苑に思いきりお辞儀をし、お礼を言った。なぜ改まってこんなことをしたのかと言うと、改めて彼女の作る料理の美味しさに気づけた。そんなところだろうか。
「な、なによ……頼めばいつでも作ってあげるよ!」
「じゃあ、これからもよろしく」
「うん。こちらこそ」
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