思い出と幼馴染
「るーちゃん!」
「おわっ!? なにやってんだ紫苑!?」
いきなり紫苑はバルコニーから身を乗り出し、飛び降りた。
(まさか、俺と会ったことであのときのことを思い出して、飛び降り自殺をしようとしているんじゃ……!?)
そう嫌な予感が頭をよぎってしまい、俺は走り出した。
「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「え? るーちゃん?」
「危ないってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺は紫苑を助けるために、彼女のクッション代わりになるために、思い切りスライディングをした。
「紫苑! これでだいじょ……ぐへっ!」
「あっ、るーちゃんごめん」
どうやら俺が説明し切る前に行動を理解したようで、紫苑は容赦なく俺を踏みつけた。高いところから降りた上であるため、勢いがすごく、俺の背骨は折れそうなほどダメージを負った。
「いててててててて……」
「もぉ〜、るーちゃん。紫苑、いつもあそこから飛び降りてたでしょ? 忘れちゃったの?」
呆れたように言いながら、紫苑は俺の背中からおりた。
「そうだっけか……? まぁ、そんなこともあったな。うん」
本当はおぼろげだが、思い出したふりをした。
「るーちゃん、51時間ぶりだね……」
「よ、よぉ……紫苑。ちょ、調子はどうだい?」
いざ紫苑と目が合うと、俺は気まずさのあまり、ぎこちなくなった。
「あのさ、紫苑……」
ここで俺は決めた。彼女に謝ろうと。たしかに梨音に危害を加えようとしたことは許せない。だが、俺も言葉で危害を加えてしまった。紫苑が謝ってこない限り謝らないつもりでいたが、そんなことはどうでもよかった。
だが……
「るーちゃん! ごめんなさい!」
「……え?」
まさかの先制謝罪。俺が望んでいた、紫苑からの謝罪という形になった。
「紫苑……るーちゃんとるーちゃんの大事な彼女にひどいことしちゃった……」
「紫苑……俺こそごめん。あんなひどいことを言っちゃって」
「ううん。紫苑が悪いの! だって紫苑……門矢さんのこと殺そうとしたんだよ!? 正直、るーちゃんに見せられる顔なんてなかった! だから、ここでずっと一人でいたんだよ。自分の気持ちに折り合いをつけるために、現実を受け入れるために……」
「ずっと!? 家に帰ったんじゃなかったのか!?」
「もちろん、パパママお姉ちゃんに心配かけたくないから、ちゃんと家には帰ってるよ」
「それならよかった……」
とりあえず、ここで連日野宿(?)しているわけではなかったようで、一安心した。
「紫苑、今のるーちゃん……門矢さんと付き合っているるーちゃんを完全に受け入れるまで会わないって決めてたから、この場所にいたのに……まさか会えるとは思わなかったよ」
紫苑……
「まさか、紫苑のことが嫌いになった今のるーちゃんが、この場所に来るなんて思わなかったよ。完全に忘れていたと思ってた……」
たしかにほんの少しまでは忘れていた。でも……
「俺は紫苑のこと、嫌いになっていない!」
「る、るーちゃん!?」
俺はしおらしく、自嘲的に笑う紫苑が見ていられず、思わず彼女の肩をガシッと掴んだ。
「正直、お前のことは恋人にはできない……梨音もいるし。ただ、幼馴染としてのお前は好きだ」
「るーちゃん……」
「それに、俺も紫苑に合わせる顔がないって思ってた。俺が紫苑をあそこまで追い詰めておいて、あんな酷いことまで言ってさ……俺が何も言わずに付き合ったからあんな凶行に走ったんだろ!? 中学のとき、俺が変に拗らせたせいで全く会わなかったり連絡しなかったから、あんな性格になったんだろ!? 俺が……もっとお前を大事にしていたら……紫苑、ごめんな」
いつの間にか、俺の頬には涙が流れていた。この謝罪は、この前のことだけではない。小学校を卒業した後のこと、長年疎遠になってしまったこと、いや俺自身がそうしてしまったこと……俺が何年も紫苑を苦しめてきた。そのことの謝罪だ。正直、許してくれとは思っていない。でも、伝えたかったのだ。俺の気持ちを。
「もう、るーちゃん泣き虫なんだから……よしよし」
「うっ……うっ……」
紫苑は優しく、俺の頭を撫でた。
「俺、わかったよ。紫苑、ずっとここに来てたんだよな? 俺が来なくなった後も、中学のやつらとのうのうと遊んでいた間も、高校受験してたときも……だから、ムラサキ号は昔のままなんだよな? いや、昔よりもキレイなんだよな?」
「うん。そうだよ。紫苑、るーちゃんがいつか帰ってくるかもって信じて、ずっとムラサキ号に来てたんだよ。るーちゃんがいつでも帰ってきてもいいように、掃除もしたし、コケが生えてきたときも、その都度取ってたんだよ」
「うぅぅ……紫苑……」
俺は改めて気づいた。紫苑は暴走しちゃうときもあるけど、優しくて俺のことを考えてくれる大切で最高な幼馴染だってことを。
「紫苑、門矢さんにも謝らなきゃ……正直、まだ踏ん切りがつかないけど」
「紫苑、大丈夫。落ち着いたら、直接会いに行って謝ればいいから」
「うん」
そして、俺の彼女に謝罪させることを約束した。一番謝ってほしい相手だったから、この約束は絶対果たしてほしいものだ。
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