身を潜められる場所は思い出の場所でした。

「とは言ったものの……心当たりのある場所なんてあるのか?」


俺は身を隠せられる場所について考えていた。


「クラスで基本話すのは梨音と充希と紫苑くらいだし……そのうち梨音と充希の家はダメ。どうしたらいい……?」


だが、いくら考えても、これ以上は思いつきようがなかった。紫苑の家も俺のすぐ隣だから、バレるのもあっという間だし……というか俺、紫苑に酷いこと言った以上、匿ってくれって言うのもなんか虫がよすぎるし……


「……ん? 紫苑? 隠れられる場所、あったわ……」


紫苑。そのワードで俺は、ある場所が頭に浮かんだ。



 ――あれは、7年前……小学3年生のころのはなしだ。俺は紫苑に突然誘われ、家から少し離れた場所にある山に来ていた。


「し、しーちゃん。見せたいものがあるって、なに? まだ見つからないの〜?」

「当たり前でしょ! かいぞくさんの宝物だって、見つかりづらいところにあるんだから! でも、もう少しで着くから!」

「お、おれもうクタクタだよ〜……」

「もう〜! るーちゃんは本当に体力ナシナシなんだから〜もう少しだから、がんばろ!」

「わ、わかったよ……」


この時、俺はひいひいと言いながらも、紫苑に尻を叩かれながら一生懸命歩いたっけ。

昔の紫苑はアクティブで気が強くて、男の俺が気圧されるほど男前だったんだよな……もっとも、俺がひ弱だっただけとも言えるけど。


「あっ、ここだ!」

「ここって……?」

「見たらわかるでしょー? ここだけ、草がしおんたちより大きいんだよ?」

「そ、そうだね……もしかしたら、おれのお父さんより大きいかも」

「そう! この長ーい草がヒントなんだよ! この先に見せたいものがあるんだよ!」

「この先……?」

「それじゃあさっそく、ここをくぐりましょう!」

「え!? くぐる? ここを?」

「当たり前でしょ? ここを通らないと、目的地に着かないんだから! じゃあ、しおん先行くね!」

「ま、待ってよ! しーちゃん!」


当時の俺は怖かったが、紫苑とはぐれるのはもっと嫌だった。だから必死についていった。涙目で草を手でよけながら。


「あー……もう」


だが、当時の俺の身長の倍ほどある草を上手く避けられるはずもなく、通り切った時は俺の服はすでに草まみれだった。そして、紫苑の服も草まみれだった。


「し、しーちゃん……なにがあるの?」

「見てよ。るーちゃん……これが、しおんたちの秘密のばしょ、秘密基地ムラサキ号だよ!」


そう言いながら、紫苑はツリーハウスのような(いや、今思うとツリーハウスそのもの)を指した。

そのツリーハウス……もとい秘密基地ムラサキ号は緑色の屋根だ。ムラサキとは程遠いような……今思うと、紫苑が自分の名前を入れたんだろう。


「秘密基地ムラサキ号……? しーちゃんが見せたかったものってこれ?」

「しおん、昨日ここを見つけたの! で、るーちゃんに教えようかなって、案内したの! これはしおんとるーちゃんの秘密ね!」

「わかった! おれとしーちゃんだけの秘密!」

「じゃあ、早速入ろっか!」

「うん!」


その日から、俺たちは放課後や休みの日は、秘密基地ムラサキ号で遊んだ。ここでトランプとかUNOとかのカードゲームをしたり、お菓子とか食べたり、ただ普通に話したり……色々なことがあったな。


だが、卒業後はパタリと行かなくなった。

最後に行ったのは、卒業式の次の日に、紫苑と二人だけで開いた卒業パーティーのときだったような気がする……



「たしか、ここのデケェ草むらの先にあったはず……」


そのパーティーを開いたとき以来、俺は一度もムラサキ号には行っていない。おそらく紫苑も行かなくなっただろう。

長年行かなかったのだから、もしかしたら台風とかにやられて無惨な姿になっているかもしれない。

でも、ここは俺と紫苑だけが知っている場所なんだ。ここでならしばらく身を潜められるんだ! だから頼む……


「無事でいてくれ! ムラサキ号!」


思わず声に出してしまうほど、俺は秘密基地のことが心配だった。もちろん、ちゃんと雲隠れできる場所なのかという心配が9割だ。だが、残りの1割は思い出の場所が変わり果てていないか。そんな心配だ。


「って、ついさっきまで存在を忘れてたくせに、随分虫のいい話だな。ははは……」


と、俺は自嘲的に笑った。


そして、ようやく長い草むらを乗り越えた。


「……!?」


俺の目に映ったのは……全く変わっていない。それどころか、昔より綺麗になっているムラサキ号だった。


「よ……よかった」


俺は思い出の場所が何一つ色褪せていないことに感激し、涙を流した。


「ん? え? るーちゃん?」

「え……?」


ムラサキ号の中から声がする……その声は長年ずっと耳にしている、聞き慣れた声だ。


「な、なんでいるんだ……?」


目を凝らして見ると、ムラサキ号のバルコニー(?)っぽいところに、紫苑がいた。


まぁ、俺以外に人がいるとしたら、必然的に彼女以外あり得ないだろう。二人だけの秘密なのだから……











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