親友とボディーガード

 ――放課後


「あの……瑠夏様。私にできることはなんでしょうか……何なりとお申し付けください!」

「……」


 充希は手足と頭を床にへばりつけ、俺に向かって土下座をしていた。俺は脚を組みながら、机に座っていた。

さっき、こっそりと部活に行こうとする充希を無理やり呼び止めた。口だけの約束にするわけにはいかねぇからな。そもそもお前が大声出さなかったら、俺は教室で気まずい思いもしなくて済んだってことだ。


「さっき、できる範囲なら、なんでもいいって言ったよな? その言葉、忘れていないぞ」

「あ、ああ……分かってる! 覚悟は決めている!」

「そうか……なら」


 俺はニヤリとした直後……


「俺のボディーガードをやってくださいっ!」


机から降り、充希と同じポーズをした。


「え? え? ボディーガード?」


充希はキョトンとしながら、顔を上げた。


「お前、もしかしてまた平野に襲われたのか?」

「いや、違うんだ……別件でやばい人から襲われそうになっただけだ」

「やばい人……? お前の近くにはすでにやばい人がいるじゃないか」


なに言ってんだ? と言いたげな顔をした充希は、首を傾げた。


「違うんだよ……そのやばい人、変なおっさんと揉めてて、助けたらなんか俺のこと王子様だの前世で夫婦だの訳のわからないこと言い出して……挙げ句の果てに前世の記憶呼び起こすとか言ってバールで俺の頭かち割ろうとして」

「うわぁ……完全に電波じゃん」


充希は露骨にドン引きしていた。無理もない。この話を聞いたやつは誰だって同じ反応をすると思う。


「ちなみに、そいつの格好はどんなだった? 特徴がわかれば、最悪の事態は事前に回避とかできるし、警察にも通報できるからな」

「ゴシックロリータ系の服……」

「うわぁ……地雷系+電波系とか完全に終わってるじゃんか」

「で、ボディーガードはどこからやればいい?校舎出た直後か?」

「ひ、引き受けてくれるのか? 無理な範囲だと思ってたんだが……」

「バッカお前。確かに俺もとばっちりでバールで頭をかち割られるかもしれないってリスクはあるけど、親友である瑠夏を放っておけないんだよ」

「み、充希ぃ〜……」

「おっとと……」


俺は感極まって、充希に抱きついた。


「瑠〜夏〜……」

「……り、梨音」

「私の前で私以外の人に抱きつくなんて、いい度胸してるわね……」

「ひっ……すみません」


ここでタイミングの悪いことに俺の彼女がやってきた。


「門矢! 違うんだ! これは、これは……友情のハグだ!」

「違うんだって言葉を使うなよ! ややこしくなるだろうが!」

「しょうがない……許すわよ。相手は同性だし、いちいち目くじらを立てるのもよくないわ。異性だったら許さないけど……だからその代わり、二人はなにを話していたか教えてちょうだい」

「「わ、わかった……」」


梨音の寛大な処置により、この場はどうにか収まりそうだ。


「瑠夏が俺にボディーガードをしてくれって言ってきて」

「なんで……私じゃダメなの!? 私、三葉君よりもちゃんとボディーガードできるわよ!?」

「ちょっ……話を最後まで聞いて」


と思ったが、簡単に収まらないようだ……


「梨音、とりあえず落ち着いて。色々事情があるんだ」

「……なによ」

「なんで俺が充希に頼んだかと言うと、そっちの方がリスクが少ないと思ったからなんだ……」

「どういう意味!? 私だけじゃ物足りないって言うの!?」

「おい瑠夏! 初耳だぞそれ! 俺が死んでもいいっていうのか!?」

「だから落ち着いてって……」


今度は一斉に二人まとめて責めてきた。


「あの地雷電波女、もしかしたら俺と梨音が一緒にいたら、梨音の方に危害を加えるかもしれないって思ったんだ……」

「わ、私に……? まぁ、あの子の言動とか見たら、やりかねないわね……」

「うん。だから、梨音はしばらく俺と行動しないほうがいいかもしれない……俺も正直、この判断は苦しいし、梨音といる時間が減るのは嫌だ。でも、それ以上に梨音が傷つくのは見たくないんだよ……」

「瑠夏……私のこと、そこまで考えてくれたのね。ごめんなさい。早まってつらく当たって」

「いやいや……責められる覚悟はしてたから、大丈夫だよ」


俺は謝罪してきた梨音に困惑しつつ、話を続けた。


「でも、あの子と何回か顔合わせしている以上、梨音一人でいても危ない気がする。だから充希には俺と梨音、両方のボディーガードをしてほしい」

「りょ、両方……!?」

「うん。両方」

「じゃあ、アレか? 門矢を家まで送った後、お前を家まで送ってそれから部活に行くために学校戻ることになるじゃんか!」

「ごめん。さすがに無理難題だったよな。やっぱりこの話はなかったことに……」

「いや、いいぜ」

「え?」

「部活よりも親友と親友の彼女の方が大事だ! それに、俺は部内でも優秀な成績を残しているから、多少サボっても責められることは少ない! それに、毎日出てるしな!」


自分で優秀とか言っちゃうのか……


「でも、ボディーガード期間はいつまでになるか分からないよ?」

「いいって。部活に出られなかった分、自主練もするからさ。それよりも、お前らカップルの無事を祈るぜ」

「あ、ありがとう……充希!」


本当にお前みたいな優しい親友を持ってよかった……と、俺は心の中でジーンとした。


「で、ボディーガードについての話の続きなんだが、校舎出た直後からでいいか?」

「あ、いや……それがな」

「ん?」

「教室出た直後でいいかな……」

「え?」

「だってあの子、なぜか学校特定して、校舎の中に侵入してきたから……」

「……え?」


充希は驚きのあまり目を丸くしながら、梨音の方を向いた。


「ええ、本当よ。私もこの目で見たわ」

「マジか……本当にやべぇな」


充希、すまん……苦労をかけるよ。



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