悪夢再び

 ――昼休み


「はぁ……朝から胃がもたれるぜ」


 俺は教室から抜け出し、昇降口の近くにある、自販機の前にいた。充希になにかやらせようと思ったが、あいつは部活の打ち合わせがあるため時間が取れなかった。梨音の側にいるという選択肢もあったが、おそらく周りの人間からひんしゅくを買うと思い、それも断念した。


「とりあえず、ごぜティー買うか……」


 と、俺はお気に入りの飲み物ごぜティー無糖を買おうとボタンを押そうとしたが……


「無糖は売り切れているよ。レモンティーはあるけど」

「え? うわ、マジか……」


 よく見ると、ボタンには赤文字で売り切れと表示されていた。俺はよくボタンを見ないで購入しようとしたため、指摘してもらうまで気づかなかったのだ。


「教えてくれてありが……」


 その人にお礼を言おうと、後ろを振り向いた瞬間、絶句した。


「あ……あ……なんで」

「やっほー。ルカ」


 俺に話しかけた人の正体は、藤井亜姫だった。恐怖のあまり、俺は腰を抜かした。今日の彼女は灰色のゴシックロリータを着ている。この人は地雷系の服しか持っていないのだろうか……?


「な……なんでいるんだよ!? なんで俺の学校知っているんだよ!?」

「えー? なんでって……今日の朝、ルカをつけたからだよ」

「嘘だろ……? どうやって……?」

「なーんて。冗談冗談」

「冗談!?」


 いや、もしも俺の後をつけたのが冗談だとしたら、どういう手段で学校を特定したんだ……!?


「どうやって学校を特定したのかって、気になっている顔だね~」


 俺の考えを完璧に読み取れるのも怖い……


「それはね! ルカとアキが運命の赤い糸で結ばれているからだよ!」


 あっ、ダメだこれ……理由分かっても理解できないやつだ。


「それで、どう? アキと過ごした記憶、思い出せそう?」


 と言いながら、ずいっと亜姫は俺に顔を近づけた。顔同士の間にほとんど間はなく、キスしそうな距離感だ。


「だから思い出すもなにも、そんな記憶は存在しないから……仮に前世で一緒だったとしても、思い出せるもんじゃないから」


 今度は、なるべく相手を刺激しないようにやんわりと拒否をしたが……


「ふふふ……ふふふふ……あははははははははははははははははははははははは!」


 亜姫は突然、狂ったような笑い声をあげた。おいおいおい……嫌な予感がするんだが。


「あはははは……はぁ。やっぱり、頭に強いショックを与えないと、ダメみたいね……」


 と、言いながら亜姫は例のバールを取り出してきた。


「あ、ああ……」


 バールを持った亜姫、腰を抜かし、動けない俺……もうダメかもしれない。そう思ったとき


「はぁっ!」

「うっ……」

「!?」


 と思ったら、突然亜姫が気絶をしたため、事なきを得た。


「ふう……」

「梨音!」


 亜姫を気絶させた人間の正体は、梨音だった。また彼女に助けられたな……俺。


「瑠夏! よかった無事で!」

「おっ……」


 梨音は少し涙目になりながら、俺に抱き着いてきた。


「ごめんなさい……私のせいで一人にさせちゃって!」

「え? いや、なんで梨音のせい?」

「私がクラスメイトにバカ正直にあなたとの関係を言っちゃったせいで、クラスにいることが気まずくなっちゃって、休み時間教室から出て行ったんじゃないかしらって……」

「いやいやそんな……(半分当たっているけど……)ことはない」

「いえ、私にはわかるわ。瑠夏が教室にいづらくなったことが……ごめんなさい」

「梨音……」

「でも、今後この女に付きまとわれないためにも、私の目の見える範囲にいてほしいのよ! だから、もし教室にいづらくなったら、私のそばにいて!」

「わ、わかった……」


 梨音に謝罪させたことに関して申し訳ないと思ったのと同時に、自分の行いの軽率さも反省した。


「それにしても、なんでこの女……学校の場所を特定できたのかしら?」

「そうなんだよ。理由を聞いても愛の力とかと一点張りで……」

「はぁ、なんなのよ……私の方が愛の力が強いに決まっているじゃない。私の愛の力があれば、瑠夏の親の実家の特定もできるわよ」

「……」

「じょ、冗談よ冗談……引かないで~……」


 と梨音は言っていたが、本気で言ってるようにしか見えなかった。目とか淀んでいるし……

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