人間は束になった途端、強くなった気でいる

「おい流川! どういうことだ!?」

「梨音ちゃんの家に行っただけではなく、風呂にまで入ったの!?」

「クラスの高嶺の花であるお方の風呂に入るなんて……お前は存在してはいけない生き物だ!」

「許せねぇ……やっぱり貴様は俺たち男の敵だ!」

「流川君、高校生なのに彼女の家にお泊まりなんて……破廉恥だよ破廉恥!」

「ま、まさか……一緒に入ったんじゃないだろうな!」

「くぅ〜平野さんからあれだけのことをされたのに、こんなことをしやがって!」

「やっぱりあのとき平野さんによってやられたらよかったんだ!」

「クソ野郎が!」

「くたばれ!」


クラスのやつらから取り囲まれた俺は(隣には充希がいる)、一斉に問い詰められた。一斉にくるもんだから、言葉が混ぜこぜになり、俺は全ての言葉を聞き取ることができなかった。


「俺は聖徳太子じゃねーんだよ! いっぺんじゃなくて、一人ずつ話せ!」


と俺は机を叩き、声を張り上げた後、充希を睨みつけた。


「る、瑠夏……悪かったって。責任とって、俺も弁解するから」

「いや、お前当事者じゃないから弁解不可だろ」

「うっ……そ、そうだな」

「お前が言ったところで、訳のわからないことになって余計に事態がややこしくなると思うから黙っててくれ」

「わ、わかった……」


と、俺にバッサリ言われた。充希は引き下がった。


「三葉君じゃ無理よ。私が話すわ」


と、言いながらギャラリーのやつらを押し除けて、梨音が輪の中に入ってきた。


「そもそも、今回は瑠夏は私の家には泊まっていないわ。私が瑠夏の家に泊まったのよ」

「「「「!!??」」」」


包み隠さず話した結果、野次馬のやつらと充希は一斉に驚き、ザワザワした。


「る、流川貴様……門矢さんの家に泊まりやがって!」

「どういうつもりだ! 我々への当てつけか!?」

「瑠夏、お前マジか……門矢を家に連れ込むなんて」

「黙りなさいっ!」

「「「「……」」」」


また野次馬(と充希)は俺を責め立てたが、梨音の戒めの言葉により、一蹴された。


「で、もう一つ真実を言うわね。瑠夏の匂いと私の匂いが同じなのは、瑠夏を完全に私のものにするために、私が普段使っているシャンプーを貸したのよ」

「「「「!!??」」」」


また野次馬のやつらがザワザワしはじめた。


「る、瑠夏。そういうことだったのか」

「そ、そうだよ? 充希。梨音の言った通りだよ?」


充希は納得してくれたようで、俺は安心した。しかし


「そして……」

「あー……待って梨音。みんな納得したかは分からないけどさ、もう大体言ったからいいんじゃないの?」


俺はさらに真実を話そうとする梨音を止めようとした。なぜなら、次に言うであろうことが99%予想がつくからだ。


「と、とにかく梨音の話は終わり! 解散!」

「いや、ダメだね! 貴様に仕切られたくなんかない!」

「俺たちは他にも真実を知りたいんだ!」

「ああ! 三葉が大声で言ったこと。あれの真実が知りたい!」


……どうやら、考えてることは同じだったようだ。


「てか、貴様! なにちゃっかり名前で呼んでるんだ!」

「ただの普通の高校生が高嶺の花の名を軽々しく呼ぶなんて、罪深いぞ!」


……そ、そこも!?


「い、いや……本人からそう呼んでって言われたから……」

「「「「!?」」」」


野次馬はまたまたまたザワザワし、一斉に梨音の方を向いた。


「ええ。本当よ。デートしたときに私から呼ばせたのよ」

「「「「「デ、デ、デ、デートォォォォォォォォ!?」」」」」


さっきから野次馬がうるさい……


「そして、デートの後に瑠夏の護衛のために、家に泊まったのよ。そして、混浴をしたのよ! 肌と肌を密着させて!」

「「「「こ、こ、こ、こ、混浴ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」」」」


……言っちゃった。


「流川! 貴様!!」

「混浴をしたの!? 高校生には早いわよ!?」

「くぅぅぅぅぅぅぅ〜……羨ま……けしからんっ!! 流川ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「貴様のような人類は万死に値する!」

「ま、間違いは起こさなかったわよね……?」


女子は俺に忠告をしているようなのに対し、男子は憎悪と嫉妬と嫌悪感をぶつけられた。

だが、どちらも「護衛」という言葉には触れていない。おそらく、「混浴」という言葉のインパクトが強すぎて、スルーしたのだろう。


「る、瑠夏、一緒に入ったのは、本当だったんだな。冗談で言ったのに……」

「ホ、ホントウデス……」

「ほぉ〜……いいじゃんか」

「いや、そもそもお前が大声で言ったからこんなことになったんだぞ? 冗談でも言っていいことと悪いことがあるって。てか、お前も一緒になんか言ってたし……黙っててって言ったじゃん」

「す、すまない……」


俺ははぁ、とため息をつきながら充希を咎めた。マジで許せんわ。こいつは……


「な、なんでもするから……」

「ん? 今なんでもするって言ったよね?」

「で、できる範囲で……」

「言質とったからな」


よーし、こいつになにをやらせるか……と考えていた。その間


「とにかく! 私の彼女は瑠夏よ! お泊まりしたり混浴する関係なの! だから、みんながどうこう言う資格はないのよ!」

「……大きな声で……勘弁してくれ」


思い切り耳に入ってきた梨音の(半ば公開処刑とも言える)言葉により、充希への制裁とかなどどうでもよくなるくらい顔が熱くなり、両手でそれを覆った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る