瑠夏は王子様?
「ありがとうございます! ありがとうございます! 本当に助かりました!」
地雷さんは何度も俺に頭を下げまくり、お礼を言ってきた。
「いえいえ。そんな……俺はただ首を突っ込んだだけで……」
「あの人、いつも私にセクハラしてきて……でも、太客だから店長にかけあっても出入り禁止にしてもらえなくて……」
「それは災難ですね……たしかにあの人、めっちゃ太っていましたし」
「あの……太客はお金を出してくれる懐が太い客って意味であって、太っているという意味では……」
「あっ、そういう……それにしても、大変でしたね。変な客に捕まって。一緒に歩いていた方はホストですか?」
念のための確認だ。もしもこの子が本当に高校生で、ホストクラブに入っていたら問題だからな。
「アキの好きな地下アイドルで、アキの王子様です! この人とアキは、運命の赤い糸で結ばれていました!」
「そ、そうなんですか……」
あれ? この人もやばい人か……?
「でも、アキの本当の王子様は、彼ではありませんでした」
「へ、へぇー……で、その王子様とやらはなんですか?」
あのおっさんは絶対ありえないとして、まさか……
「アキをあの暴漢から助けてくれたルカ、あなたです!」
「えっ、ええ……って、なんで名前知ってるの!?」
「え? だってさっきの刑事さん、あなたのこと瑠夏って呼んでいましたよね?」
「ああー……はい。そうです。流川瑠夏です」
俺はやけくそ気味に自分の名前を名乗った。一刻も早くこの場を去りたくてしょうがないのだが……
「ルカ、かわいい名前っ! アキの名前は、藤井亜姫です! よろしくねっ!」
「……」
正直、名前をかわいいと言われるのはあまりいい気がしなかった。なぜなら、このルカという名前は男性にも使われてはいるがどちらかというと女性寄りの名前だからである。
「ふふふ……アキの王子様……ルカ。今から私の愛の巣へ行きましょう」
「ひっ……」
俺は亜姫の言葉にぞわぞわし、鳥肌が立った。やっぱりこの人、やばい人だ!
「えっと……悪いけど俺、亜姫さんの王子様じゃないから! ただ、困っている人を助けただけだから! それじゃあ!」
「ちょっと! ルカ!」
俺は猛スピードで逃げた。あのやばい女とはこれ以上いたくない! それに、他の女性と話したとして、梨音を怒らせてしまう!
「待ってー! アキの王子様―!」
「う、うわああああああああああああああああああああああ!」
さすがに追いかけては来ていないよな? と思いつつ、後ろを振り返ると、猛スピードで亜姫が俺に迫ってきていた。
「あ、足が速すぎる……なんで厚底ブーツなのにあんなに早いんだよ!」
このままだと追いつかれる……いや、待てよ……逃げるより彼女を遠ざける簡単な方法があるじゃないか。
俺は一旦立ち止まった。
「あれぇ~? ルカ、逃げるのやめたの~? やっぱりアキのこと、好きなんだね! もう、照屋さんなんだから~」
「……」
正直、何を言っても話が通じるとは思えなかったが、多分大丈夫だ。うん。
俺は一旦深呼吸し、彼女にこう告げた。
「悪いけど俺、彼女いるから! あなたとは付き合えない!」
「……」
彼女がいる。その事実さえ告げれば、身を引いてくれるだろう。
――だが、俺のその考えは非常に甘かった。パッツンプリンのてっぺんよりも、だ。
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