地雷系女子とおっさん
「夜遅くに公園に女子一人で、おっさんに迫られている……どうみても危ない絵面だ!」
気が付くと、俺の身体は彼女の方に向かって走っていた。あのおっさんがこの前の矢場杉高校のやつらみたいに道を聞いているだけかもしれないという考えもよぎったが、おっさんが女の子の腕を掴んでいる時点でよくないことであると確信した。
「その子から手を離せ」
俺はおっさんの腕を掴み、低い声で咎めた。
「な、なんだ!? お前は!」
「……ただの優柔不断な高校生だよ。なにがあったか理由は聞くから、ひとまずその子から離れてください」
この前の矢場高の人たちみたいに一方的に疑うのはよくない。だから理由だけは聞かないと。
「お……俺はこいつに貢いだんだ! 何万も何百万も!」
み、貢いだ……?
その言葉を聞き、俺は女性の方に非があるのでは? と疑惑を感じ始めた。
「あの、あなたもしかして最近はやりの頂き系女子というやつですか? ダメですよ。男の人を騙しちゃ……それとも、パパか……」
「違いますっ!」
「あっ、すみません……」
よく見るとこの女性、黒い髪をツインテールにして、その髪にピンク色のリボンをつけていた。服は、黒いリボンをつけた白いブラウスを着ており、黒のスカートを履いていた。靴も黒色で、厚底ブーツである。その靴のせいなのか、身長は俺を追い抜かしていた。どう見ても地雷系ファッションだよな……完全にパパ活とかしてそうな恰好なんだよな。
――だが、見た目だけで判断するのはよくない! 俺は彼女の言い分を聞くために、まずは職業を聞いた。
「えっと、職業はなんでしょうか……?」
「こ、高校生です……バイト帰りです」
「なんのバイトしていますか?」
「メイド喫茶だよっ!」
と、ここでおっさんが口を挟んできた。
「俺はこの子のために毎日メイド喫茶に通って、毎回この子を指名して! この子はいつも俺を見て微笑んでくれた!」
いや、誰にでも微笑むだろ……仕事なんだから
「それなのになんだ! 昨日店を出てこの子の後をつけてみれば、俺以外の男と腕を組んで歩いていたんだぞ! だから俺は、証拠写真をこっそり撮って、今日それについて説明をしてもらおうと思ったんだ!」
と、大声でわめきながらおっさんはその地雷さんと赤い派手な髪をした黒いスーツを着た男と歩いている写真を見せつけてきた。
「えっと……それは……」
……つまりストーカーじゃん。盗撮もしているし……というか、一緒に歩いている人、ホストじゃないか? いや、高校生はホストクラブに行けるか……? まぁ、いいか。
「あの、一緒にいた人は多分その方の推しです……」
俺はアワアワしている地雷さんの代わりに、おっさんに真実であろうことを話し、説得をした。ホストという言葉を推しに変換する形で。
――そして、スマホを操作しながら。
「お、推し……?」
そうやら彼女は、推しという言葉に疑問を感じていたようだ。推しという言葉が分からないのか、はたまた本当に彼氏なのか……
「推しだろうがなんだろうが! 俺以外の男と歩くなんて、この浮気者! 裏切り者! 犯罪者!」
「犯罪者はあなたですよ」
「うっ……」
と、ここで警察がおっさんの背後から現れた。ここの公園は警察署が歩いて数秒のところにある。だから俺が呼んですぐにやって来たのだ。
「あれ? キミ、瑠夏君? 怪我とかしていないかい?」
「いえいえ。それよりもユウさん! このおっさん、連れて行っちゃってくださいっ!」
「任せてくれ!」
ちなみに、ここの刑事さんの一条雄太郎さんと俺は昔からの知り合いだ。
「詳しいことは署で聞きましょうか」
「まっ待ってくれー! 俺の話を聞いてくれー!」
「はいはい。署でたっぷり話を聞きますよー」
「待ってくれえええええええええええええ!」
――こうして、おっさんはユウさんに連れていかれた。彼が盗撮、ストーカー、恐喝の罪で豚箱に入るのは、また別のお話。
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