俺の周りは騒動ばかり!
後悔先に立たず
「はぁ……」
俺は暗い夜道で一人、ため息をつきながら帰っていた。ため息を吐くと幸せが逃げると言われているが、今日の俺は幸せからどん底に突き落とされたのだから、これ以上逃がす幸せは残ってないだろう。
「紫苑……」
だが、その幸せをぶち壊した元凶の名前を、俺は無意識で呟いていた。それは、さっき感情に身を任せ、彼女を突き放したことに負い目を感じていたから……かも知れない。
――だが、それ以上に俺の大事な彼女に危害を加えようとしたことは許せない。だから、あいつが反省して謝ってきたら、俺も謝ろう。つまり、あいつが謝らない限り、俺はあいつと関わらないし、話さない。ということだ。
「……ん?」
その時、俺のスマホからバイブ音が聞こえた。ほんの少しだけ嫌な予感が胸によぎりつつも、電話に出た。
「もしもし?」
『おう、瑠夏か。あれだけのことがあったのに、よく電話出られたな』
「やっぱり充希か。お前がかけてきたからだよ。それに、紫苑になにかあったかとも思ってさ」
『まぁ、お前の言ってることはあながち嘘ってわけじゃない。さっき、お前がいなくなった後、平野が狂った笑い声を上げたんだが……』
「まさか、お前もとばっちりで刺されたのか!?」
俺はいかにも初耳の情報かのような口ぶりで聞いた。本当はあいつの笑い声は耳に入っていたのだが、聞こえないふりをしていた。
『いや、俺はなにもされてないぞ。それどころか、今平野は壊れたおもちゃみたいに聞き取れない小声を延々に呟いているところだ』
「そ、そうか……」
『本来なら幼馴染のお前になんとかしてもらうところだが、今回はさすがにお前に任せられないな。下手したらまた殺しに行くかも知れん。で、俺が電話した理由は、平野の家の住所を教えて欲しいんだ。だから、メッセージで送ってくれ』
「ああ、分かった……」
『じゃあ、頼むぞ』
その言葉を最後に、充希は電話を切った。
「本当に頼りになるな……でもだからこそ、紫苑のこと任せてしまって申し訳ないな」
そう呟きつつ、俺は充希に紫苑の住所を送った。
「待てよ……ということは、今帰ったらまずいんじゃないか? もしかしたら、鉢合わせになるかも知れない」
そうよぎった俺は、すぐに充希にメッセージを送った。
〈紫苑を家に送るのが終わったら、教えてくれ。鉢合わせはごめんだからな〉
〈分かった。でも、そうなるとしばらく家に帰らない方がいいんじゃないか? 家隣同士なんだし、危ないだろ〉
〈それは大丈夫〉
〈そうか。じゃあ、送ったら連絡するよ〉
なぜ大丈夫かというと、紫苑のストッパー……親や姉がいるからだ。特別厳しいという訳じゃないが、娘の様子がおかしいなら、ちゃんと見張ってくれることだろう。
――だったら、今回の事態が起こることを防いでほしかったのだが……
「……ちょっとそこで時間潰すか」
俺はたまたま公園が目に入り、そこに足を踏み入れた。
「そういえばここでよく紫苑と遊んでいたよな……あのブランコでどっちが大きく漕げるか競争したり、敢えて滑り台の滑る方から登ったり、ジャングルジムてっぺんまで登った方が偉いとかふざけたり、落とし穴を掘ったり……懐かしいな」
ベンチに座りつつ、昔のできごとに思いを馳せていた。
「紫苑のやつ、昔はやんちゃだったよな……本当、昔はあんな感じじゃなかったのに……やっぱり俺のせいか? 中学の時、俺が連絡を取らなかったせいか? はぁ、本当に俺は馬鹿だ」
梨音と付き合えたから浮かれていたけど、もう少しあいつの気持ちを考えるべきだったと思う。いや、付き合う前からもだ。中学の頃も梨音と遊ぶことを優先したせいで、あいつに寂しい思いをさせたかも知れない。もっといえば、受験があったとはいえ。会えなかった空白期間の時に連絡すればよかったかも知れない。
たらればなことが頭の中をぐるぐると周り、俺の心は少しずつ擦り切れて行った。
「ああああああああああああああああああ! もう! 俺は本当に馬鹿だ! でも、どうしたらいいんだよ! タイムマシンさえあれば……ん?」
そして、とうとう心が限界になり、思わず叫んでしまった。そんな時、俺の目に中年男性に迫られている一人の少女が目に映った。
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