眼鏡ショップと不気味な猿

 その店に入ると、様々な眼鏡が並べられていたため、眼鏡ショップである。壁には眼鏡をかけた目が大きく、歯をむき出しにした不気味なサルのキャラクターがあちらこちら描かれていた。

 悪趣味だな……と思いつつ、俺はなぜかそのキャラクターに見覚えがある気がした。だが名前を思い出せないため、紹介文が書かれているパネルに近づいた。


「えっと……『このキャラクターは当店のマスコットキャラクター、メガネザルくんです』……いや、そのままじゃねえかよ!」


 と、思わず声に出してしまった。


 ……あれ? このツッコミ、だいぶ昔にも言ったような気がする……


「瑠夏、メガネザルくん知ってるの?」

「ああ……いや、俺は……」

「私は知ってるわよ。かわいいわよね。この子」


 かわいい……?


「そ、そ、そうだね……うん」

「めっちゃ微妙な顔するじゃん……」


 今の言葉も、聞き覚えがあるような気がする……


「えっ、そ、そうかな? それにしても、さっきの映画館のスタッフといい、水着の店員さんといい……俺たち、めっちゃ茶化されたな」


俺は梨音のセンスを否定したくないあまり、この変なキャラクターの話題からそらすために、不自然なほど違う話をはさんだ。


「まぁまぁ、いいじゃない。まるで祝福されているみたいで、私は嬉しかったわ」

「そうか……?」


 ふと、さっきの映画館スタッフの態度のことを思い出しつつ、疑問に感じた。


「それより瑠夏、この店になにか見覚えないかしら?」

「うーん……メガネザルくんはなぜか既視感あるけど、それ以外はどうも思い出せない……てか、俺ここの店に入ったことあったか? 目は悪くないはずだけど」

「ふーん……とりあえず、まずはこの店を色々見ましょう!」

「そ、そうだな!」


 俺たちは色々商品を見つめた。


「そういや梨音、新しい眼鏡欲しいの? 今のやつが一番似合う気がするんだけど」

「……正直、私は今のままの眼鏡がいいけど、たまには違う素材を試してみるのもいいんじゃないかしら?」


 と、言いながら梨音はいつもの眼鏡を外し、茶色のフレームの眼鏡をかけた。


「違う素材……なるほど」

「で、どうかしら?」

「うーん……正直、眼鏡の感想を言うのは正直難しいけど、落ち着いた茶色をしてるだけあって、普段の冷静な梨音にとても似合ってるよ」

「結構感想言えてるじゃない……ありがとう」

「じゃあ、今の色の反対という感じで……今度はこれで!」

「おお……」


 次に梨音がかけたのは、ピンク色の渕をしたハート型の眼鏡だった。確かに派手な感じはするな。ピンクという色は、本来は落ち着いた色に組み込まれる方なのだが、眼鏡にするとやはり目立つ色になってしまうのだ。

 ……いや、それ以上にハート型というのが奇抜なのだが


「……前にこういう眼鏡をかけた可愛いアイドルをテレビで見たな」

「……瑠夏」

「あっ、いや……」

「瑠夏、そのアイドルと私、どっちが可愛いの? ねぇ! ねぇ!」


 ポツリと呟いた言葉を聞かれてしまい、梨音は俺に迫ってきた。どんだけ地獄耳なんだよ……近いって! もろに吐息が俺の顔にかかっているから!


「も、もちろん梨音の方が可愛いよ! 俺が言おうとしたのは、似たような眼鏡をかけたアイドルがいたけど、寧ろあなたの方がピッタリって言いたかったんだよ!」

「そう。それはよかったわ……でも、どうして私以外の女を見たの!? テレビ越しでも許さないわよ!」


 ……どちらにせよ、怒られるのか。


「悪かったって……それに、たまたま見ちゃっただけだから、意図的に見たわけじゃないって」

「でも、心は揺さぶられたわよね!?」

「いや、そんなことないから! 俺、アイドルには興味ないから!」


 それは半分本当で半分嘘だ。俺は女性アイドルなんぞに興味はない。ただ、最近新生の男性アイドルには少し興味がある。とはいえ、梨音は同性でも許さないだろう。そう思い、俺は口には出さなかった。


 その男性アイドルについては、こんど話そうと思う。


「む~……じゃあ、こっちはどう!? アイドルよりかわいい!?」


 今度は、黒渕のシャープな眼鏡をかけた。俺の興味のないアイドルと張り合いながら……


「すごくプライドが高そうな優等生に見える……いつもの門矢さんと違って、すげぇかっこいい!」

「一言余計よ……プライド高そうって! でも、嬉しいわ。ありがとう」

「とはいえ……やっぱりいつもの赤渕眼鏡が一番梨音らしいな!」


 ……あれ? この言葉、言ったことあるような? そうだ、あの時だ!


 ――そう、俺が中学一年生の頃だ。

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