初彼女とのデートは初体験ばかり!
エスコートするわよ!
「……早く来てしまった」
――今日は土曜日……つまり、梨音とのデートの日だ! 本当は十時に待ち合わせのはずだったのに、あまりにも楽しみ過ぎて九時半に待ち合わせ場所の駅に来てしまったのである。
「俺、めっちゃソワソワしてるよな……周りの人たちから変な目で見られてないよな?」
土曜日の朝ということもあるのか、駅は人々でにぎわっていた。親子連れ、カップル、夫婦、友達同士……色々な人々が俺の前を通り過ぎていく。人のざわざわした雑音と、電車の走る音が俺の耳に入るたびに、どこか心細さを感じた。
「さすがに早すぎたか……いや、でもまあ早いことに越したことはないよな! 遅刻よりはマシだ! うん!」
と、強がっていたが、それで心細さが解消されるわけではなかった。その心細さは、彼女である梨音がまだ来ていないという焦りと不安かもしれない。とはいえ、早く来すぎたのは俺だから、そんな気分を味わうのは自分自身が原因だ。
――余談だが、あれから紫苑と会うことは一度もなかった。俺としても会うのは苦しかったから、都合はよかったのだが……やはり心配だ。もっとも、しお姉は特にやばい行動は起こしていないと連絡を貰っているから、そこまで深く気にする必要はないのだが……
「って、いかんいかん!」
他の女のことを考えてどうする!? 今日は門矢さんとデートの日なんだぞ!
俺は自分を戒めるように両手で頬を叩いた。そして、太陽が輝いている晴れ晴れとした空を見上げながら……
「今日は雨が降らなくてよかったな……今年は梅雨入りが遅いって言われていたから、晴れるとは思っていたけど……」
と、つぶやいた。
「それにしても……ここの駅の雰囲気も随分変わったな」
俺たちが待ち合わせた場所は、俺が通っていた中学校の最寄り駅である。そして、ここは梨音の家の最寄り駅と一駅違いである。中学を卒業した時点で既に改装工事に入っていたのだが、まさかいつの間にかこんなに変わるなんて……本当、時の流れって早いな。と、思いながら見回していると
「あっ、瑠夏! お待たせ―!」
「!?」
愛しの彼女がやってきた。その彼女は、デニムの白い半袖シャツに茶色のカーディガンを羽織っており、下にはデニムのショートパンツを履いていた。そのため、学校で見る時以上に、スラっとした長い脚が露わになっていた。だから、自然とそこに目を惹かれた。
……それに比べて俺の格好は青いパーカーと単純なもので、おおよそデートするのに相応しい格好とは言えないものだった。これでも俺なりに服装を選んだつもりだったんだけどな……相手がハイレベル過ぎた。それにしても、本当に脚長いな……
「……あの、私を見てくれるのは嬉しいけど、あんまりじーっと見られると恥ずかしいかな?」
「ああっ! ご、ごめん! あまりにも似合っていたから……」
「そう。それはよかった……実はこの服、最近買ったやつなのよね」
「最近?」
「うん。それこそ、瑠夏を押し倒し……デートに誘われた後かな? どんなのが瑠夏の性へ……好みに合うかなって、服を選んでいたのよ。まあ結局なかったから、ZAZAタウンで新しい服買ったんだけどね」
「そ、そうだったんだ……」
マジか。わざわざ俺のために……ダサい服着てここに来た自分が情けない。そして、大変ありがたい。一方でデートのために新しく服を買う。ということに関しては、少しばかり重たくも感じた。だが、それが女子の間で常識なのだろう。だが、それはそれとして、好みって言う前になにか変なこと言いかけなかった!?
「正直、どう思ってもらえるか不安だったけど、足を嘗め回すように見られたし、どうやら瑠夏の性癖にぶっささったみたいでよかったわ!」
はっきり言っちゃったよ! 性癖って! でも、あながち否定しきれない……
「瑠夏ってもしかして、足フェチ?」
「えっと……」
どう答えればいいんだ……正直に言うもの変態っぽいし、否定するのもなんか申し訳ないし!
「ふふっ……なんてね。ちょっとイジワルしたくなっちゃっただけよ」
「も、もう! びっくりしたよ!」
「ごめんごめん!」
なんか梨音、いつになくテンション高くないか!? いや、当然か。デートなんだからな!
「それにしても、思ったより来るの早かったね。まだ九時五十分なのに……」
「待ち合わせの時は十分前集合が基本よ。それ以外にも、登校や出勤時間、面接の時もよ!」
「そういう真面目なところも、あなたらしいな」
「それくらい普通よ。それじゃあ、今日のデートは私がエスコートするから、ついてきなさい」
そう言いながら、彼女は手を差し伸べてきた。
「おう。今日はよろしく!」
俺はその手を握り返した。
「この私に任せなさい! 結構行ったことあるから!」
数日前、デートのプランをどうするか話し合った結果、デパートに行くことに決めた。実は、中学時代に友達と何回か行ったことがあるのだが、どうやら最近新館ができ、エリアが大幅に広くなったのだ。だから、迷う可能性がある。だから俺は全力で新館にも詳しい彼女に頼るのだ!
――と、なんとも情けない決意をするのであった。
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