幼馴染の姉 パート2

「し、しお姉、どうしてここに?」

「いやー、スーパーのセールがあったからさー。それで、目が合ったから久しぶりに声をかけたんだけど……なんで怯えていたの?」

「そ、それは……」


 正直に紫苑の件を話すべきか迷った。言ったら言ったで、姉妹の間に亀裂が入ってしまうのではないか? と不安になっていたが……


「紫苑になにかされたんでしょ?」

「あっ……うん」

「やっぱりね。紫苑、自分で言ってたから」

「え?」

「部屋にこもりながら言ってたよ。るーちゃん、殺そうとしてごめんなさいって……紫苑はもうるーちゃんに会う資格はないって」

「そ、そうなんだ……」


 意外なことに、彼女は反省していたのだ。てっきり、また俺たちに危害を加えるのではと勝手に思っていただけに、予想とは違った答えだった。

 ちなみに、俺の予想は、部屋で新たな殺害計画を企てているのでは? である。


「あのさ、しお姉……」

「んー? なんだい?」

「悪いけど、紫苑のこと監視してくれないかな?」

「か、監視? な、なんで?」

「紫苑が反省したのは伝わったけど、またなにをされるか分からないからさ……」

「そこまで言うってことは、相当なことされたんだねー……」

「……うん」


しかし、やはり不安の残る俺は、しお姉にそう頼んだ。そしてこの時、俺は左腕が締め付けられるような感覚を味わった。


「いてててて……」

「ふーっ……ふーっ……」

「か、門矢さん!?」


 腕をギリギリ締め付けてきたのは、やっぱり門矢さんだった。そして彼女は、しお姉を睨みつけ、ライオンのように威嚇していた。


「えっと、もしかして……君、瑠夏の彼女? ごめんなさいね~話こんじゃって。別に盗ったりはしないから、安心して」


 と、飄々と受け流しつつ、俺の耳に口を近づけた。


「……てっきり、紫苑とくっつくとばかり思っていたから、意外だったよ」

「いや……別にそういうつもりじゃ」

「いや、いいっていいって! 誰と付き合おうが、自由だし」

「……しお姉、頼むから余計なことは言わないで。これが原因で、紫苑が怒ったから」

「そ、まあとにかくお幸せに! じゃあ、私はスーパー行くから! ごゆっくりー」


 こうして、俺たちはしお姉と別れた。


「あの……門矢さん?」

「瑠夏。今の女、誰? やけに馴れ馴れしかったけど」

「い、今のは、紫苑の姉で……ほら、この前話したでしょ?」

「あー……聞いた聞いた。あの人だったんだ。本当、平野さんそっくりだね~」

「……い、いうてそっくりかな? 性格も違うし……髪くらいじゃない?」


 彼女は段々と狂気をはらんだ声色になっていき、俺は少し恐怖を感じた。


「ねえ、瑠夏」

「な、なに門矢さん……」

「……瑠夏、今日は私の家に行きましょう」

「えっ……ちょっと!?」

「それでもって、お泊りもしなさい」

「ちょっと門矢さん! 離してって!」


 俺は無理やり連行され、改札口を通らされた。


「これ以上瑠夏に悪い虫がつかないよう、私が徹底的に教育してあげるわ」

「だ、誰か! 助けてくれえええええええええええええええええええええ!」

「ねえ瑠夏、今誰に助けを求めたの!? ねえ!」

「……な、なんでもないです。すみません」


                  ▲


 ――門矢さんの家。


「瑠夏……聞くわよ。あなたの彼女は誰?」

「か、門矢梨音です……」


 俺は門矢さんの部屋で正座をしていた。一方、彼女は仁王立ちになっていた。ものすごい圧を感じる……


「そうだよね。で、なんで私の前で私以外の女と親しく話しているの?」

「いや……あの人は紫苑の姉の紫織さんで」

「しお姉、しお姉って……すごい親しそうに話したいたわよね?」

「いや、あれは向こうから話しかけてきたのであって……」

「ふーん……ねえ瑠夏」

「……は、はい」

「そこのベッドに座ってくれるかしら?」

「えっ……いいけど、門矢さんはいいの?」

「いいから座りなさい!」

「は、はい……」


 俺は言われるがまま、ベッドに座った。次の瞬間



「……え?」


 俺は彼女に押し倒された。顔が近い……きれいな目とまつげがより一層、キレイに見える……身体が近いせいか、いいにおいもする……あの柔らかそうな唇に俺の唇を合わせたら、どうなるんだろうな。


(……ダメだ。力が強すぎて払いのけられない)


 俺が感じたのは押し倒された恐怖ではなく、こういった不純な心だった。


「瑠夏」

「は……はい」

「……私以外の知らない女と親しくしていた罰」

「ちょっと……なにしてんの?」


 門矢さんはおもむろに俺の制服の第一ボタン、第二ボタン……第三ボタンを外した。全部外されると思ったら、そうではないようだ。


「えっと……門矢さん、なにを……うっ!?」

「……」


 痛い……すごい痛い。門矢さんは、俺の首に嚙みついた。しかも、思い切り歯を立てている。漫画やラノベでこういったシチュエーションは見たことがある。しかし、俺はもっと甘い感じのを想像していた。いや、たしかに甘ったるい状況であることには変わりはない。だが、それ以上に……


「……痛い」


 痛みのほうが勝っていた。しかも、何かの壁にぶち当たったとかそんな痛みではなく、最初は弱いが、じわじわと強くなり、痛みが増してくる……というものだ。そして、段々と俺の血の気が引いてきた。


「門矢さん……痛いって」

「……ぷはっ。瑠夏。門矢さんって呼ばないで」

「……え?」


 血の気が完全に引き切る前に、彼女は噛むことをやめた。俺はそれにより、意識を失わずに済んだ。

 というか、呼ばないでって、どういうことだろうか?


「幼馴染とはいえ、平野さんや紫織さん、紫苑とかしお姉って呼ばれてずるいよ。私だけ苗字でさん付けなんて……恋人同士なのによそよそしいわ」


 考えたこともなかったな……すっかり門矢さんで定着していたから。


「だから、私からのお願い……名前で呼んで」


 でも、恋人からの断る理由はない。


「わかったよ。梨音さん」

「ぶっぶー……」

「え?」

「さん付けで呼ばないで」

「うっ……」


 彼女はまた俺の首を噛んできた。しかも、さっき噛んできた方とは逆方向だ。


「ぁ……ゥ……わ、わかった! わかったから!」

「ぷはっ……なにがわかったの?」

「えっと……名前で呼ぶこと……」

「そうね。じゃあ、今すぐ呼びなさい」

「……り、梨音」


 正直恥ずかしい気持ちもあったが、勇気を振り絞り、彼女を呼んだ。


「はい。合格~私のお願い聞いてくれてありがとうね。よしよし~」


 門矢さん……梨音はにこやかに微笑みながら、俺の頭を撫でてきた。お願いって……


(ん? お願い……? そうだ!)


 俺はそのワードがキッカケで、彼女に伝えるべきことを思い出した。


「梨音!」

「な、なに……? ふあっ!?」


 急に勢いよく言うものだから、梨音はよろっとし、ベッドに倒れた。


「り、梨音!」

「る、瑠夏……?」


 早く伝えないと……そう焦る気持ちにより、俺は彼女に覆いかぶさった。


「瑠夏……? な、なに……?」

「俺と……デートしてください!」

「ひゃ……ひゃい」


 よかった。ようやく伝えられた……


「あの……瑠夏。私、覚悟できているから……どんときて!」

「えっ……あの……ごめん」


 ――このあと滅茶苦茶……って、するか!

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