親友の提案

「念のためもう一回言うぞ。門矢をデートに……」

「分かった! 恥ずかしいからもう言わなくていい! ……で、なんでいきなり」


 俺は充希からの直球すぎる提案に困惑していた。


「いきなりもなにも、お前門矢と付き合ってから、恋人らしいことはしたか?」

「……家で寝泊まりした」

「でもそれは、想定外で起きたことだろ?」

「確かに、本来は家の前まで送るだけだったし……でも、デートか。正直実感湧かないな。紫苑やあま……中学の友達と遊びに行ったことはあるけど、恋人同士のデートって考えると、また違う感じだもんな」

「まぁ、そうなるな。友達と出かけるのと、恋人で出かけるのは全くの別物だ。まずは今日、土日のどちらか誘え」

「でも、今日金曜日だぜ? 土日まで時間なんかないだろ?」

「馬鹿お前、俺が言ってんのは、明日とか明後日じゃなくて、一週間過ぎ後の土日の話だよ」

「あっ、そっちか」

「普通そうだろ。気づけ馬鹿」

「おい、馬鹿ってさり気なく二回言ったな!?」

「ああ。言ったぜ。でもそれはお前が馬鹿だからだ!」

「あっ、三回目!」


後でお返しに三発殴るか……


「一週間以上時間があるんだ。お互いどこ行くか話し合えるし、ついでにお前の勉強のモチベーションも上がる」

「確かにそうだな……いや、勉強に関してはそうか? というか、勉強関係あるか?」

「あるさ。だって勉強ができれば、成績も門矢さんに近づけるんだぜ?」

「た、たしかにな……」

「一週間後に楽しみがあったら、それまで頑張るぞ! って、自分の心にエンジンを簡単にかけられる」

「そ、そうか……」

「まぁ、俺から言いたいことはそれだけだ。プランはさっき言ったように、お前らだけで考えろ」


 次の瞬間


「ちーっす」

「おはようございます!」

「あれ? 充希、先に来てたのか?」

「隣のやつ誰だ? 新しい部員か?」


 一斉に四人のサッカー部員たちが入ってきた。全員身長が高く、それでもってガタイがよい。


「別に新しい部員ってわけじゃないっすよ~」

「す、すみません。お邪魔して……」


 彼らの体つきをみてビビったのか、俺は少しぎこちないしゃべり方になった。


「いや、いいんだ。だが、そろそろ部活がはじまるんだ。すまないが……」

「は、はい。じゃあ、充希。部活、がんばってな」

「おう! お前こそ、デートがんばれよ!」


 充希の声は特別大きいわけではないが、ヒソヒソ声ではなく、普通の声のトーンでそう言ってきた。


「は? デート!?」

「お前、リア充なのかよ!?」

「相手は年上か? 年下か?」

「で、何回ほどやったんだ!?」


 それにより、サッカー部員たちの耳にその言葉が入り、俺は彼らに囲まれ、質問責めをされた。


「えっと……えっと……」


 一斉に質問してくるもんだから、俺はあわあわすることしかできなかった。


「瑠夏、すまない……サッカー部の人たち、先輩とか同級生問わず、恋愛の話に敏感なんだ。主に部長のせいで……」


 充希は食い気味に謝ってきた。

「そ、その部長はどんな人なんだ……?」

「ヤリチンクソ野郎で日替わり彼女のことを俺たちに自慢してくる」


 そりゃあ敏感になりますわ!


 俺はそう、心の中で叫んだ。そして


「あの! 俺、彼女待たせてるんで、失礼しまあああああああああああああああす!」

「あっ、逃げた!」


 部員同士の間をくぐり、部室から脱出した。

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