明かされる真実
「……」
正気に戻ったか?
「……」
「し、紫苑……?」
「……」
「あの、いきなり叩いてごめ……」
「ふふふ……これがるーちゃんの愛なんだね」
「……えっ」
さっきのギラギラとした目の紫苑から打って変わって、今度はとろんとした目になっていた。いつものタレた目が、更に垂れ下がっていた。
「いいよぉ……もっと叩いて。これで満足するなら、もっと紫苑を叩いて……」
……マジか。目を覚ますどことか、別の意味で目覚めさせてしまったようだ。
「俺はお前と話をしたいだけだ! 頼むから正気に戻ってくれよ!」
予想外な紫苑の発言に少しだけ俺もパニックになり、彼女を揺らした。
「……なんちゃって」
「え?」
「冗談に決まってるじゃん……半分だけ」
「そ、そう。冗談か……冗談」
最後にぼそっとなにか言っていたが、とりあえず本気じゃなかったことに安堵した。実際、紫苑のいつものタレ目に戻っている。
「るーちゃん、ごめんね。紫苑、どうかしてたみたい」
「……全くだよ。急にあんなことして。さらにはあんなこと言うし」
「本当にごめん……」
「でも、俺と話をしてくれるならいいよ。はい」
「あ、ありがとう……」
身体を冷やしては大変と思い、裸の紫苑に俺のブレザーをかけ、紫音はそそくさと袖を通した。
「後でちゃんと自分の服着ろよ。じゃあ、話し合いするか」
「うん。でもその代わり、紫苑から切り出させて」
「ああ、分かった。だが、俺からも頼みがある」
「なに?」
「お互い感情任せにならないようにしよう」
「わかった」
こうして、俺たちはお互いの条件をのみ、話し合いを始めた。
「じゃあ、どうして連絡しなかったのか正直に言って。紫苑、もう首絞めないし……おっぱい揉ませたりしないから!」
「……本当か?」
「本当だよ。約束する」
「……分かった」
少し半信半疑になりつつも、俺は口を開き、わけを話した。
「言い訳にしか聞こえないと思うけど、昨日スマホ落としたみたいで……」
「落とした……? るーちゃん馬鹿だけど、スマホや財布とかみたいな貴重品を落とすような人じゃないと思うんだけどな。馬鹿だけど」
「二回言うなよ……」
「冗談はさておき……るーちゃんはこれまで財布やスマホを落としたこと、あるの?」
「ない、な」
「そうだよね。昔一緒に遊びに行った時、ことあるごとに鞄の中身確認するくらいだもんね。高校の入学式帰りの時も、同じことやってたし……そんな姿見た時、昔から変わらないなぁ、って思ったよ」
「は、はぁ……」
紫苑は真剣な表情をしていたが、昔話を始めた途端、段々と表情が崩れて、なぜかニヤニヤしだした。
「おっと。昔話に花を咲かせる場合じゃない……で、そのスマホは誰から渡されたの? 警察からではないよね?」
「うん。実はお前をここに連れてくる直前に、門矢さんから渡されたんだよ。どうやら、昨日落としたみたいで」
「ねぇ、怪しいとは思わない?」
「怪しい?」
「どうして昨日落としたものを、今日渡すの?」
「タイミングがなかったって……」
「普通は拾った直後に声をかけるもんでしょ? タイミングが無かったとしても、家に着いた時に渡すべきだと紫苑は思うの。るーちゃん、スマホ貸して」
「……門矢さんに変なメッセは送らないでくれよ」
「そんなことは分かってるよ。とにかく貸して」
「わ、分かったよ……」
有無を言わさぬ態度の紫苑に、スマホを差し出した。
「……やっぱり」
「え?」
「るーちゃんのスマホ、電源切られているよ。どうりでバイブも鳴らないわけだ。犯人は絶対、門矢さんだね」
「いや……たまたまバッテリー切れになっただけかも知れないし」
「それと、パスワードが単純すぎるよ。なんで自分の生まれた年と誕生日なの? そんなの取られた時にバレるって……どうやら門矢さんには気づかれてないからよかったけど」
「ちょっと! あっけなくロック解除するなよ!」
「分かりやすいパスワードを設定した方が悪い!」
なんというめちゃくちゃな逆ギレ……
「それと、昨日門矢さんの家に行った直後、急に眠くなったって言ってたけど……どんな状況だったの?」
「状況か……どうして門矢さんが馬鹿な俺のことを好きになったか考えている間かな」
「惚気ないで!」
「いや、別に惚気ているわけじゃ……」
「惚気ないで!」
「いや、最後まで話聞いて! 感情任せにならないって約束だろ」
「あっ、ごめん……」
「で、俺のことが好きになった理由を考えているうちに、眠くなっちゃったんだよ」
「……その前になにか口にしなかった?」
「なにか? あっ……そういや、お茶飲んだな」
「それだよ!」
「えっ……どういうこと? てかここ、保健室なんだから静かにしてくれよ……」
「そのお茶に、門矢さんはなにかを入れたんだよ」
「えっ、なにかって?」
「それは……」
「それは……?」
「睡眠薬だよ!」
「……す、睡眠薬!? 嘘だろ!?」
にわかには信じられなかった。
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